環境エネルギー政策研究所(ISEP)インターンが、全国ご当地エネルギー協会会員団体にインタビューをおこなうご当地インタビュープロジェクト。第3回は、静岡県地球温暖化防止活動推進センター・センター次長で、しずおか未来エネルギー代表取締役社長の服部乃利子さんにオンラインでお話をうかがいました。
ご当地インタビュープロジェクトについて
ISEPのインターンが、全国ご当地エネルギー協会会員団体にインタビューをおこない、必ずしも一般的には知られていないご当地エネルギーの魅力を伝えるプロジェクトです。
#3-1 しずおか未来エネルギー株式会社
今回インタビューしたのは…
服部 乃利子(はっとり のりこ)さん
2012 年 12 月、コミュニティパワーによる再生可能エネルギーの普及推進をメイン事業とする 「しずおか未来エネルギー株式会社」を設立。代表取締役社長に就任。第1期プロジェクトとして、 産官学民金と連携し、全国初の少額短期市民ファンドを活用した太陽光発電事業に取り組む。現在、静岡県地球温暖化防止活動推進センター次長を兼任しつつ、地球環境、地球温暖化の現状を伝えながら、人材育成のための環境エネルギー教育講座、毎日の暮らしの中でできることを中心にした省エネ講座やグリーンコンシューマーの視点を取り入れたワークショップなどを実施。小中高校への派遣授業や自治会、公民館講座などへの出前講座も積極的におこなっている。
- 静岡県地球温暖化防止活動推進センター センター次長
- 平成10年~17年 静岡市消費者協会事務局長として静岡市の消費者問題にかかわる
- 平成17年~現在 環境省認定環境カウンセラー、静岡県・静岡市環境学習指導員
地域のステークホルダーと学ぶ小水力発電
第1期プロジェクトは太陽光発電事業、第2期プロジェクトとして小水力発電の開発を手がけていています。
脱炭素社会に向けた活動として、地域での温室効果ガスの排出量算定事業(現状推計、将来推計)を手がけています。どこに再エネ設備をつくるかということも大事なのですが、その地域で排出される温室効果ガスを数字データで把握することは大事だと思っています。
市民の環境意識情勢や環境教育に関しては、地域で再生可能エネルギーにかかわる人材を育成することが持続可能な事業に繋がると考え、エネルギー環境教育に力を入れています。
地域の公民館で小水力についての勉強会や事業説明会を開き、みなさんの意見を聞かせていただきながら進めています。みなさんが、地域にこういう発電所ができて良かったと思ってもらえるようでなければ意味がないと思っています。
実際に発電所をつくることにより、法的規制や、クリアすべきこと、かかる経費についてなど取得できるノウハウがたくさんあります。私たちが事業主体となって発電所をつくり続けるのではなく、そのノウハウを活用して、地域で事業主体を目指すみなさんをお手伝いして、水平展開を目指していきます。
さまざまな壁を乗り越えて実現した太陽光発電事業
市民ファンドを活用した発電所であることを来場者に知ってもらうために、入口の一番目立つところに記名ボードを設置しました。県産材を使い障害者施設の方々に作成してもらいました。
ホッキョクグマのところには温暖化パネルが、アムールトラのところには熱帯雨林のお話と、もともと動物園内に設置された情報も使いながら対象年齢に応じたものと、先生や保護者用のガイドもセットでつくりました。年間1万人以上の方が手にしてくださり、好評を得ている取り組みです。こういうプログラム通じての啓発も地域貢献になると思っています。
建設計画時の公園法では、公園中には建築物をいっさい建ててはいけないと制限されていましたので、この2カ所への設置がかなわないのなら、事業自体をあきらめようと思っていました。
ところが2012年の12月に都市公園法が改正され、既築の建物上なら設置可になり一気にプロジェクトが動き出し、契約の1間前に会社設立という綱渡り状態でスタートしました。また、公共施設への設置許可に関して、耐震、耐風、引抜検査の基準クリアや事故に対する保険など、自治体から出される多くのリクエストに応えるもの大変でしたね。
ここには既築建物がなかったので、まず日除け雨除け用のカーポートを設置して申請。建築確認を経たうえで、太陽光パネルをつけるという計画にしました。そのためには、なんと!300筆にも分かれた登記簿を取り、また調整池も設置するというハードルが出てきました。
そこで、頑張ってくださったのが市の職員さんです。庁内調整のために関係課を30件以上、県、消防などと調整し、ハードルを越える算段をしてくださったおかげでなんとか審査を乗り越えられました。とはいえ、太陽光パネルなしのカーポートをつくり、そこから屋根板をいったん外して、太陽光パネルを載せ、下から再び屋根を付け直すという工程で、経費は当初予定の3倍から4倍かかってしまいました。
そのうえ、カーポートの柱を清水エスパルスのチームカラーのオレンジ色にして、マスコットのパルちゃんをあしらったことにより、景観法をクリアしなくてはならなかったりと、いろいろ苦労しました。
それでも、毎回来る1万人から2万人のサポーターの方に見ていただけますし、富士山をバックに景色も素晴らしいし、うちの一番のシンボルとしてがんばってくれています。
例えば、体育館の屋上に太陽光パネルを設置させていただいた静岡市立清水桜ヶ丘高校では、校舎玄関に設置された情報共有用の大型スクリーンで設置の意義についての動画を流してもらいましたし、近隣の自治会のみなさんには説明会にも参加してもらうなど地域の方々には事業のさまざまな局面で積極的なご協力をいただいています。
また、紙ベースではなくウェブ上で募集したことで、幅白い層のみなさんの目に留まったようです。ネット環境のない、高齢者の方が参加しづらいというデメリットが出てきましたが、メールアドレスを把握することができたので、通信費をかけずに一斉にお便りを送り続けることができるなど、その後の運営もすべてウェブ上で完結することができました。
ランニングコストの削減のため、さらに、静岡県民のみなさんがこぞって出資したくなるようなプライスレスな特典を用意したいと、ワークショップを開催して希望を取り入れたりしました。おかげさまで、募集開始1週間前で80%、締切前に100%達成できました。
そんな時「これから太陽光事業を手がけるにあたり、市民のみなさんと一緒にできることはないだろうか」というお話をいただき、私と、NPO法人アースライフネットワークの代表、大学の先生、静岡市、それから当時太陽光発電事業にとりかかろうとしていた鈴与商事株式会社職員のたった5人での小さな勉強会がスタートしました。
ちょうどその時期に環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」の第1期事業者募集があり、静岡市とアースライフネットワークの連名で申請したところ、採択事業者7者のうちのひとつに選ばれ、2年間の取り組みとしてはじまりました。
その後、静岡市では温暖化対策の実行計画を検討する委員会が結成されたので、ここのエネルギー部会のみなさんにも参加してもらい、私たちの事業計画をチェックしてもらうようになりました。
風力、太陽光、バイオマス発電、のどれからはじめるか議論し、当時、静岡市は年間日照時間が全国2位(上位3位はすべて静岡県内)という高いポテンシャルがあるうえ、比較的早く設置できることから、太陽光発電からはじめようという計画を立てました。これが立ち上げの経緯ですね。
みなさん全員「いやもうこれはやるべきだ」という方向性は一緒なのですが、やっぱり視点や切り口がそれぞれ違います。特に、エネルギー事業を手がけることへの厳しいご意見も多かったですね。
「市民を巻き込んでお金を出してもらうなんて大丈夫? 破綻したらとても大変なこと、FITをやるなら20年間ちゃんと責任もってできるの? 本当に融資をしてもらえるのか? 経営をしていかなきゃいけないこと、そこはちゃんとわかっていますか?」などなど。
事業主体として株式会社を設立することなど、私たちもはじめてですから、知見やお知恵をお借りしながら、ひとつずつ丁寧に対処しました。さっきの池田山自然公園の話にしても、課題が山積で暗雲立ちこめるわけですよ。そういうデメリットも全部お話をして、ひとつずつ丁寧にみなさんとお話をし、ご理解をいただきながら進めました。立ち上げに苦労した分、最終的にはこのメンバーがみんな味方・仲間になってくださって、今でも大きな力を貸してくださっています。
スピード感をもって地域の再エネ資源を掘り起こす
それといかに地域・市民を巻き込むかです。以前は市民ファンドというかたちでしたが最近は他の方法もいろいろありますので、地域のキーマン、特に女性の視点を大事にしながら考えたいですね。そして地域に利益が還元できる仕組みをつくって、その地域が持っている課題の解決に少しでも結びつけたいです。
それから、自分たちがつくった電気がどこで消費されているか、も非常に大事だと思っています。現在、私たちの発電所でつくった電気はすべて新電力会社に卸し、今年の4月から100%再エネ電気として静岡市庁舎に供給されています。私たちがつくった電気をただ売るだけではなく、地域で循環できる仕組みつくりが必要です。これからも、自分たちの電力が脱炭素社会の構築に役立つための一助になれることを目指していきます。
30年後、私は自分のことで精一杯で地域の事は考えられない(笑)。だから次の人材を育てなくては、と思っています。中途採用も開始する予定ですし、インターンはいつでも歓迎です!!
ご当地エネルギーで働くこと
<おまけ>
開発にかかるフロントフィーなどへの支援も、もっと欲しいです。設置にかかる補助金なども、事業利益が回るようになった時には返金するなど、地域で事例をどんどんつくれるように多様なメニューで支援していただきたいですね。
その後、静岡県温暖化防止センターが立ち上がることになり、センター指定の審査員からスタッフとして手伝うことになり、しばらくは消費者協会の事務局長と、センタースタッフという2足の草鞋で、少し毛色の違う仕事をしていました。
このようなキャリアを経験したことで、消費者に対してどう発信をしたらいいのか、行政を巻き込むための方法などを見つけることができたのだと思います。温暖化防止センター次長を担いつつ、しずおか未来エネルギーの大株主のNPO法人の専務理事、そして社長という3足の草鞋を履くことになるとは、あの頃は想像できませんでしたが、目の前の経験したことひとつずつすべてが自分に中の小さい種となって、その後に活きているんだなぁ、と実感しています。
参考情報
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