2014年2月、市民共同発電に取り組む人々のネットワーク組織である「市民電力連絡会」が発足イベントを東京で開催しました。市民電力連絡会は、これから一体どのような役割を果たして行くのでしょうか?代表の竹村英明さんと東京の江戸川区で市民電力に取り組むグループにお話を伺いました。(取材・記事:高橋真樹)

市民電力連絡会発足記念フォーラムに集まった市民電力を手がける人々(写真:高橋真樹)
市民電力連絡会発足記念フォーラムに集まった市民電力を手がける人々(写真:高橋真樹)

市民電力連絡会が設立

都市部などで市民グループが小さな発電所を設置する、いわゆる「市民発電所」は、原発への疑問を感じ、自然エネルギーを増やそうと願う人たちを中心に、1980年代頃から設置されてきました。しかし、小さな太陽光発電設備では採算が合わず、寄付金に近いもので成り立っている設備も多くありました。ところが、2012年7月に施行された固定価格買取制度(FIT)によりその敷居はぐんと下がり、多くの人が地域に市民共同発電所を設置する動きを見せるようになっています。

そして、そうした市民共同発電に取り組む人々のネットワーク組織である「市民電力連絡会」が発足。2014年2月には、発足イベントを東京で開催しました。市民電力連絡会は、これから一体どのような役割を果たして行くのでしょうか?

これから取り組む人たちにも、ノウハウや情報を共有

市民電力連絡会は、主に首都圏で活動する14の団体で発足しました。その中には、「ご当地電力レポート」で取り上げた多摩電力や、調布まちなか発電の母体となったエコロミも参加しています。いずれは全国へと広げていこうと考えていますが、まずは連絡が取りやすく、事情も似通った地域が連携し、地に足をつけた活動にしていきたいとのことです。

設立の背景には、2つのポイントがあります。1つは、福島原発事故の影響と前述したFITの開始によって、自分たちでも発電事業をやってみようという人たちが増えてきました。しかし、その市民運動や町づくりをやってきた人たちの中には、会社の経営を経験してきた人はごくわずか。事業といっても、初心者にとっては何から始めたらいいのかすらわからない状況です。そこで、これまでの経験者が集い、最新の情報やノウハウを共有する場が必要ということになりました。

2つ目は、すでに小さな発電所を地域に設置しているグループ同士の連携です。早めに行動したグループでは、採算を度外視して90年代から設置をすすめてきたところもあります。しかし、たいへんな苦労をして10キロワットほどの太陽光発電設備を1機、2機と設置したものの、都市部では土地探しや資金集めに難航し、その後は行き詰まってしまっているグループが少なくありません。また、規模が小さいためFITの買い取り価格に載せても、ほとんど利益がでないのが実情です。そうしたグループ同士が情報を共有し、ともに声を上げることで制度のあり方そのものも見直していこうという狙いがあります。まずは、具体的に何をして行くかについて、市民電力連絡会の代表に就任したエナジーグリーンの竹村英明さんから話を伺いました。

発電規模別の価格を求めて活動 – 竹村英明さん

市民電力連絡会発足記念フォーラムで語る竹村英明さん(左)(写真:高橋真樹)
市民電力連絡会発足記念フォーラムで語る竹村英明さん(左)(写真:高橋真樹)

「都市部で小規模な市民電力をすすめてきた運動は、いま流行の「ご当地電力」とは一部かぶっていますが、大部分は少し流れが違っています。その多くは、チェルノブイリ原発事故以降、脱原発をめざす熱い思いを持った人たちが、自分たちでも行動を起こそうと寄付を集めながら、小さな発電所をひとつひとつ設置してきたものです。FITがはじまる前の2009年から家庭用の余った電力を買い取る「余剰電力買取制度」が先行してはじまっていましたが、実はこれもそのような市民発電所の運動の流れが後押ししたという要素もあるのです。

しかし、寄付型には持続していくのが難しいという限界があります。一方で、事業性をもったものにしていくには規模の小ささに比べて売電価格が安過ぎるため、採算を合わせるのが難しいという実情がありました。そこへ登場したのがFITです。まだまだ小規模な市民発電所にはぎりぎりの価格とはいえ、うまく工夫すればなんとか持続性を保てる価格になりました。そして、全国各地で数えきれないほどの市民共同発電所が生まれてきたのです。昨年の夏に、そうした全国の市民発電に取り組む人々が集まるイベントがあり、ネットワーク組織をつくるべきだとの声があがりました。そこで、そうした活動の経験や情報を共有して、力を一つに束ねていこうという市民電力連絡会の発足となったのです。

具体的な活動のひとつが、すでに始まっている連続セミナーです。こちらは市民電力の考え方や資金調達の仕方、系統連系や電力自由化についてなど、事業をやる際のポイントを実践的に学ぶものです。初めて市民電力に取り組む人にとっても、またこれまでそれなりに取り組んできた人たちにとっても役に立つ内容になっています。

もう一つ重要な活動が、FITの価格を発電規模別に分けたいということです。FITの価格は国の委員会が決めていて、2014年度に関しては規模別にはなりませんでした。今後はそうした声を共同で届けていきたいと考えています。太陽光発電は大きければ大きいほどキロワットあたりの単価は下がります。そのため大企業の出力1000キロワット以上のメガソーラーなどは今の価格でも十分な利益が出ても、10キロワットから100キロワットを中心とした市民発電所では、採算がかなり厳しくなってしまいます。

例えば10キロワット以下は、余剰売電しか選べません。選択制で10キロワット以下でも全量売電できるようにすべきだと思います。また10キロワット以上の設備は、同じ価格で買ってもらえる期間が20年ですが、10キロワット未満だと10年で、採算が取れません。それについてはすべての規模で買い取り期間を20年にするよう求めています。現在の制度は、そういったいろいろな問題点があるのです。

特に条件が厳しいのは50キロワットから500キロワットくらいの設備です。その理由は、50キロワット以上は高圧の系統に接続するため変電設備とか系統に接続するための設備が、メガソーラー並みにかかってしまうからです。でもスケールメリットはないので事業としては厳しくなります。メガソーラーをコンスタントにつくることができるのは、一部の大企業だけです。国が本当に自然エネルギーを普及したいと考えるなら、多くの地域や市民が参加してそれなりに採算の合う価格に設定する必要があります。そのため私たちは規模別に価格を考慮してもらいたいと要求しているのです。

さらに、バイオマス発電についての懸念もあります。現在、木質バイオマス発電のFITの価格はやはり1,000キロワット以上の大規模なものを前提に設定されています。しかし山間部で間伐材などの森林資源を活用してバイオマス発電をやるには、その規模では大きすぎます。では燃料はどこから調達してくるのかと言えば、国内なら山を丸裸にして持ってくるケースも出るでしょうし、あるいは安い外国産材を燃やすというケースもあるでしょう。いずれにしても持続可能な社会には結びつかない。バイオマス発電もまた、小規模な規模で採算が成り立つように価格を設定しないと、森林資源が破壊された上に会社が倒産というようなことが起こりかねません。水力についてはすでに規模別で価格が違うので、バイオマスもそれにならってほしいと思っています。

その他にもこれはまだ構想段階ですが、例えば自治体が施設に太陽光発電を導入する入札を行う際に、市民電力連絡会に参加しているグループが共同して落札するといった連携もできたら良いと思っています。まだ発足したばかりなのでこれからの部分が多いのですが、この枠組みを効果的に使って行けたら良いと思います。」

※ 連続セミナーは2014年4月から9月にかけて毎月開催中。セミナーの内容は、詳しくは竹村さんのブログ「あきらめない」をご覧ください。

江戸川で市民発電所を設置する足温ネット

江戸川区の寿光院に設置された太陽光パネル(写真:高橋真樹)

市民電力連絡会に加入している団体の一つにも話を伺いました。東京の江戸川区の市民グループ「足(そく)温(おん)ネット(NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ)」です。足温ネットの歴史は古く、1997年に地域の人々と環境NPOメンバーが立ち上げました。当初は温暖化対策のためにフロンガス回収プロジェクトや、省エネを学ぶゲームなどを制作していました。

寿光院というお寺の屋根に5.4キロワットの太陽光発電による市民立発電所第一号を設置したのは、1999年のことでした。設置費用は助成金と寄付金、借入金という形でまかないましたが、借入金の返済に10年かかってしまい、採算性は見込めません。その後しばらくは新規の設置ができませんでしたが、FIT制度ができたことにより新たに2機を設置し、2014年5月現在は、合計出力30キロワットの設備を保有しています。

2012年以降に設置した分に関しては、疑似私募債(※)の形でお金を集め、お金を出した人には10年で元金を返済することになっています。また収益が上がれば、利子の代わりに足温ネットが支援している福島のお母さんたちの団体がつくったキムチを届けるなど社会的活動に役立てることにしています。

市民発電所の中ではかなり歴史のある足温ネットですが、それだけにさまざまな課題も実感しています。立ち上げ当初からのメンバーである山崎求博さんは次のように言います。

「足温ネット」の山崎求博さん(写真:高橋真樹)
「足温ネット」の山崎求博さん(写真:高橋真樹)

”事業のつくり方や、場所探しなど、小さな市民グループにとっては結構ハードルが高いことが多くて苦戦しています。また、FITの買い取り価格が年々下がってくるので、価格は設備の規模ごとに分けて欲しいと思います。市民電力連絡会でこういった課題を話し合っていければいいですね。”

山崎さんは、太陽光を設置する場所が限られる都会に拠点を置くグループとしては、発電よりも省エネの可能性を感じていて、その事業化も合せて検討していきたいとのことでした。いずれにしても市民電力連絡会では、こうした実践をしてきた人々が課題を共有し、政策に対して声を挙げる発信源としての機能が期待されています。市民電力連絡会では、個人および団体の会員を募集中です。詳しくは、市民電力連絡会のFacebookページまで。

※ 疑似私募債
銀行や証券会社を通さず、身近な人たちから資金を調達できる直接金融の手段。個人や法人格のないNPOにも発行できる民法上の債券で、数多くの市民電力が資金調達法として利用している。

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

全国ご当地電力レポート