環境エネルギー政策研究所(ISEP)インターンが、全国ご当地エネルギー協会会員団体にインタビューをおこなうご当地インタビュープロジェクト。第1回は、新潟国際情報大学教授で、「おらって」にいがた市民エネルギー協議会の代表も務める佐々木寛さんにオンラインでお話をうかがいました。


ご当地インタビュープロジェクトについて

ISEPのインターンが、全国ご当地エネルギー協会会員団体にインタビューをおこない、必ずしも一般的には知られていないご当地エネルギーの魅力を伝えるプロジェクトです。

この記事は、藤原衣織(インタビュアー、全国ご当地エネルギー協会事務局)、工藤大樹(ISEPインターン)、植野翔斗(ISEPインターン)、一寸木美穂(ISEPインターン)が作成しました。

#1「おらって」にいがた市民エネルギー協議会


今回インタビューしたのは…

佐々木 寛(ささき ひろし)さん

「おらって」にいがた市民エネルギー協議会代表理事。新潟国際情報大学教授。専門は、国際政治学、平和研究、現代政治理論。環境エネルギー政策研究所(ISEP)理事。1996〜98年立教大学法学部専任助手、1998〜2000年日本学術振興会特別研究員(PD)、2008〜09年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員など歴任。日本平和学会第21期会長。小学校時代に毎日米軍住宅地を横切って通い、「フェンスの向こうの世界」を意識するようになる。アインシュタインに憧れ、高校は千葉県の理数科に進学。大学では立教大学の名物先生たちに触発され、政治学に目覚める。その後平和学を学びに大学院へ。現在は、「エネルギー・デモクラシー」の可能性について、学問的・実践的な探求を進めている。


1. 【現在】おらっての活動内容と地域づくりに対する思い

 

「何MW発電してるとかも大事なんですけど、人間関係や地域の新しいあり方をつくりたい」

 

 

藤原衣織
藤原衣織
まず、「おらって」にいがた市民エネルギー協議会(以下、おらって)の活動内容についておうかがいします。現在は、環境エネルギー教育、太陽光発電事業、岩室での地域づくり、コンサルティングなどをされているとのことですが(図1)、おらってとして特に推進している事業はありますか?

 

図1. おらっての活動スキーム

 

今、おっしゃった内容は全部プライオリティが高いです。ただ全国ご当地エネルギー協会(以下、ご当地)の中では、おそらくおらっては一番多くの会員数とネットワークでやっているので、地域づくりを一番やらなきゃいけないと思うんですね。

 

私の勤めている大学(新潟国際情報大学)の近くにある岩室温泉には、地域循環共生圏の協議会があって、そこでは、ホームページにも書いてあるように、大学、地元の温泉、おらって、日産自動車といったいろんなステークホルダーを交えながら、教育とエネルギーと農業と観光をつなげた事業をおこなっています。その地域を活かした事業が、来たるべき社会のモデルになったらいいなと思っています。

 

また、そのモデルをつくる上で一番大事なのは、ハード面とかお金ではなく人間のネットワークです。おらっての一番のやりたいことは、人と人がつながる力を持って地域の新しいイメージやモデルを提案することなんですね。何MW発電してるとかも大事なんですけど、人間関係や地域の新しいあり方をつくりたいんです。熱事業や洋上風力をするにしても、いま言ったような人間関係や地域の問題は副次的に出てくると思っています。

佐々木寛
佐々木寛

 

藤原衣織
藤原衣織
個々の活動はすべて大事だけれど、それらを包括するかたちで市民同士のつながりを構築することを重視しているという感じですか?

 

そうですね。みんなが当事者になる、一部のとんがった人たちがやるのではなく、ふつうの市民が参加することが大事です。
佐々木寛
佐々木寛

 

藤原衣織
藤原衣織
会員が多いことが特徴とおっしゃっていましたが、どういった会員の方が多いのでしょうか?

 

現在の会員数は約180人です。一般会員は年間1万円払うのですが、35歳までは若者ととらえていて無料です。メンバーのうち一番の実働者は退職した世代の方で、自分の職能を活かして社会貢献したいシニアの人が運営には多いですね。でも、インターンシップの制度があるので、若い人や大学生もプロジェクト毎に参加するという感じです。

 

また、県外の人も多いです。僕が東京で講演して、そこで共感してとにかくお金だけでも応援したい、そういう方々もいます。(入会案内はこちら

佐々木寛
佐々木寛

2. 【これまで】市民を巻き込んできたおらって

 

「福島事故で見えてきた植民地主義、『田舎をばかにするな』という思い」

 

藤原衣織
藤原衣織
おらっては、東日本大震災と原発事故によって見えてきたさまざまな社会の問題を解決するという流れでできてきたと思うのですが、市民発電勉強会からおらって設立までの過程(表1)を見ると、かなり市民を巻き込んでいる感じがします。そういうことができた要因には何があるのでしょうか?

 

表1. おらって設立までの沿革

2014年1月 新潟市主催の「市民発電勉強会」が開かれる
4月 勉強会参加有志により「おらってにいがた市民エネルギー準備会」が誕生
 9月 キックオフイベント「おらっての電気つくろ」を開催。280名の市民が参加
12月 「一般社団法人おらってにいがた市民エネルギー協議会」設立

 

ひとつは新潟県は福島県の隣で多くの被災者、逃げてきた人が数千人規模でいて、福島の事故は、新潟の人にとって東京や関西の人よりずっと切実な問題だったということがあります。市民に呼び掛けても切実にとらえる人が多かったんです。

 

もうひとつは、設立前の勉強会を長く続けたことです。私が主催していた勉強会と新潟市の別の勉強会があって、その二つを合体させた勉強会を2014年の1月から1年ぐらい続けたんです。みんなで時間をかけて議論していく中で、いろんな人がそこに参加したし、これをやらなきゃという思いが高まりました。ISEPからも飯田哲也さんが来ていろいろアドバイスしてくれて、本当に自分たちで発電所がつくれるということを教えてもらいました。時間をかけた熟議がカギだったんじゃないかと思います。

 

かつ、その熟議には、年代も分野もこえたいろんな人が最初から集まっていました。事業者や、私のような大学教員もいたし、議員、銀行家、行政マンも学生もいました。「これで一山儲けよう」みたいな人も最初はいたけれど、そういう人はだんだんといなくなりました。

 

学生のことで言えば、学生たちから、彼らが当時勉強していたファシリテーションを実際にやってみたいという声があがって、最初のキックオフミーティングでは彼らがファシリテーターになりました。ファシリテーションの技術はすごく重要だったと思います。

佐々木寛
佐々木寛

 

2014年9月に開催されたキックオフイベント

 

藤原衣織
藤原衣織
いろんな人が集まってきたということですが、きっとその人たちには共通の思いみたいなものがあった気がします。それはやっぱり震災に対する思いだったのでしょうか?

 

そうですね。やはりこの状況に対してなにかできるんじゃないかとみんな思っていたと思います。それとホームページにある設立趣意文を読んでみてください。私たちの勉強してきたことや思いを結集させた文章になっています。新潟には世界最大の原子力発電所があって、そこも東京電力のものなんです。福島事故で見えてきた植民地主義とか「田舎をばかにするな」という思いや、いろんな文脈が一つになっていった感覚です。
佐々木寛
佐々木寛

 

藤原衣織
藤原衣織
世界最大の原発があるという話も出ましたが、新潟のエネルギー事情と、おらってができてから地域がどう変わってきたか、という点についてはどうお考えですか?

 

新潟ってご存知のようにすごく保守的で、いまだに牛耳ってるのは保守的な人たちなんです。だから原発型、中央依存型ともいえる、東京からの助成金や補助金をもらいながら、地域をなんとか切り盛りしていくという考えの人が多い。

 

でもおらっては、地域で自立しようという逆の考えなんです。そのおらってのノリがいまの新潟を席巻しているかというとそんなことはない。ただ、新潟日報社(新潟の新聞社)が脱炭素のロードマップをつくることになった時、市民の声代表としておらってが招かれるということがありました。だんだんと市民的な試みが必要だという考えが従来の権力構造の中にも理解されてきていると思います。

佐々木寛
佐々木寛

3. 【これから】ご当地エネルギー分野とおらっての展望

 

藤原衣織
藤原衣織
ご当地エネルギー分野全体に関して、どんな展望をもっていますか?

 

いま、経産省がすごい量の洋上風力をつくることに決めたんですが、とにかく量だけつくればいいという発想なんです。国家が上から押し進める「原発型」の再生可能エネルギーになる可能性があります。だから、ご当地エネルギー協会の未来というのは、いま進む中央集権型のエネルギー転換をどれだけ変えていけるか、そこだと思っています。

 

二酸化炭素をなくすという地球温暖化問題を重視する人と、僕のように原発問題から出発して、中央集権を変えて民主化したいという人がいます。脱炭素と民主主義をつなげたいというのが僕の考えで、おらっても民主主義を重視しています。

 

脱原発と脱炭素は両方やらなきゃいけないんですけど、日本はどうしても原発型社会を残しながら脱炭素だけしようという無理なことをやっている。ご当地エネルギー協会は、地域分散、地域を主役にするっていうことができるかという正念場にいると思います。

佐々木寛
佐々木寛

 

藤原衣織
藤原衣織
おらってに関して、どんな展望を持っていますか?

 

じつは新潟ってなんでもあるんです。森林資源でバイオマスができたり、温泉で地熱発電ができたり、実は自然エネルギーの宝庫なんですね。だから、どうしたら地域がそれを生かして自立しようという発想に変わるのかを、これからおらっては考えなきゃいけない。

 

新潟県人は誰かがやるとみんなすぐやるという特徴があるので、「こうすると人が来なくなった温泉街や観光地が再生する、雇用ができる」というものを見せると応援してくれるようになる。東京に依存しなくても豊かな社会をつくれるんだということをどれだけ示せるか、というところを長期的には実験したいです。

佐々木寛
佐々木寛

 

岩室地域の風景

 

もうひとつの目標は、新潟が日本海に面していて、対岸にはロシアと北朝鮮があることと関係しています。新潟は、アジアに向いた日本の拠点になり得る。

 

将来、新潟を裏日本ではなく表日本にして、中国や朝鮮半島や台湾に目を向けて、そこと自然エネルギー共同体をつくれないかと思っています。

 

そうすると平和の礎が生まれるんです。東アジアってじつは核が集中している地域で、核兵器もそうだし原発も世界で一番集中しているので、この地域のエネルギー転換をすることは脱原発だけじゃなくて「脱核」になるんです。

 

脱核をしながら、市民が下からネットワークをつくれれば平和をつくれるんです。それを見届けて死ねたら僕は人生達成って感じなんですが、これは僕一人の力じゃできないので、みなさんの力を貸して欲しいんです。そうすると、地域分散型社会だけじゃなくて、国際的なネットワークのある平和な社会ができるんです。これはおらっての最終的な目標です。

佐々木寛
佐々木寛

 

東アジア自然エネルギー共同体のイメージ

4. 【パーソナルストーリー】この仕事のやりがいと葛藤

 

藤原衣織
藤原衣織
佐々木さんがおらっての仕事をしていく中で、やりがいを感じたこと、苦労したことなどはありますか?

 

圧倒的に人間関係の幅が広がりましたね。それが僕にとって一番の喜びや財産だなって、そこが一番喜びになっています。それから、自分の専門じゃない電気やエネルギーについて、自分が今まで知らなかったことをどんどん学べるので、それはそれですごく嬉しいんです。

 

でも、人を抱えれば抱えるほど、人間的な悩みも増えるので、喜びと大変さは両方ありますね。会社って、誰か責任持って腹を括った人がお金払って、その人が命令してみんな言うこと聞く仕組みじゃないですか。僕はそれが大嫌いで、みんなで話して決めようよっていう感じだったんですが、それだと効率が悪くて、本当に人間関係を維持するのって大変なんです。

 

一方で、代表の僕が、お金を全部出してみんな言うこと聞けって言って上からやれば決定はすごく楽なんですが、それはおらってが目指す会社(company)じゃないんですよね。その葛藤が一番苦しいです。効率を優先させると普通の会社になってしまう、だけどそれが嫌だからと民主的にやろうとするとすごく大変。

佐々木寛
佐々木寛

 

 

藤原衣織
藤原衣織
最後に、ご当地エネルギーで働く魅力や強みは何だと思いますか?

 

今はご当地で給料を得て働くのは難しいと思うんですけど、とにかくスリリングというかエキサイティングですよね。職場自体の条件がどんどん変わっていくから勉強しなきゃいけないし、それからもし、そこで働くようになったら誰よりも勉強するだろうし、誰よりも多くの人に会うと思いますし、エキサイティングな人生になるってことですかね。
佐々木寛
佐々木寛

 

藤原衣織
藤原衣織
本日はどうもありがとうございました。個人的には、新潟をアジアの中心にして自然エネルギー共同体をつくるというお話がとても印象的でした。

参考情報

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