地域エネルギーの担い手を育成する「ISEPエネルギーアカデミー」は、2013年5〜8月開講の第1期、そして10〜12月開講の第2期と、2度のクラスを終えました。第1期の卒業生の中からは、すでに環境省委託事業などの採択を受けて、実際に地域でのエネルギー事業をスタートしている人たちも出ています。今回は、2013年12月14日に行われた、第2期の卒業発表会の様子をご報告します。(取材・記事:高橋真樹)

ISEPエネルギーアカデミー第2期発表会(写真:高橋真樹)
ISEPエネルギーアカデミー第2期発表会(写真:高橋真樹)

ISEPエネルギーアカデミー第2期発表会報告

自然エネルギーを地域で活かしたいという声は、昨今ますます高まってきています。しかし、実際に取り組もうとなると、なかなか大変なもの。手作りレベルでできることを越えてしまうと、何をしたらいいのか困ってしまう方が多いのも事実です。

そこで、環境エネルギー政策研究所(ISEP)では「本気で地域を変えたい」「自然エネルギーを通じてコミュニティをつくりたい」と考える人たちを対象に、ISEPエネルギーアカデミーを開講しています。仲間のつくり方、お金の集め方など、地域で事業をすすめる際のノウハウを具体例を挙げてアドバイスしていくという実践的なプログラムが組まれています。

第2期は事前に人選を絞り込むなどして、第1期より少ない5人の受講生で進められました。講義は東京のISEP会議室で行われましたが、海外を含む遠方の受講者が参加しやすいように、ウェビナーシステムが有効活用されています。この日行われた最終発表会には都合により欠席となった1人を除き、東京で3人、カナダからネットを通じて1人が参加して、各人の実情に合わせたプレゼンを行いました。

地域のメリットを活かしたチャレンジに

「コメでん」を紹介する角田さん(写真:高橋真樹)
「コメでん」を紹介する角田さん(写真:高橋真樹)

新潟県大潟村の会社員、角田伸一さんは、風車とメガソーラーを中心にした「コメでん」プロジェクトを構想。市民出資を募り設備を設置し、電気をつくった得た配当を地域名産のおコメで返そうという事業をめざしています。

事業はまだ準備会を立ちあげつつある段階で、野鳥で有名な村に風車を建てることはバードストライクの懸念もあるなど、課題も多いのですが、角田さんは、「同様の問題はどこにでもあるので、そうした地域でも地域の人たちとの合意形成を踏まえて風車を建てられるよう、モデルケースになればいい」と話します。

長野県松本市で取り組みを検討中の前田さん(写真:高橋真樹)
長野県松本市で取り組みを検討中の前田さん(写真:高橋真樹)

エンジニアの前田仁さんは、2013年10月に転職し、地元の長野県松本市で自然エネルギーの会社を立ちあげたばかりです。前田さんは、「地元にはほとんど産業がなく、過疎化が進んでいます。子どもを育ててゆくのが厳しい環境なので、地域に仕事をつくりたいと思っています」と言います。

電力は豊富な河川を活かした小水力発電、熱供給としては太陽熱利用と木質バイオマス利用に取り組みたいとのこと。自治体との連携も含めて、こちらも課題は多いのですが、長野県はかつて小水力発電や薪ストーブの利用などを進めてきた経緯があり、ポテンシャルは十分ある地域です。

自然エネルギーの政策で先行する飯田市が策定した、地域のためにエネルギーを活かす条例を参考に、松本市にもモデルをつくれたらと構想しています。

カナダの貧困層とともに歩む

カナダ・BC州での取り組みを検討する岡田さん
カナダ・BC州での取り組みを検討する岡田さん(インターネットでの参加)

インターネットでの参加となった岡田雄峰さんは、カナダの西海岸、バンクーバーに近いナナイモという町で、小水力発電のコンサルタントをしています。ナナイモが属するブリティッシュコロンビア州では、ダムによる水力発電で多くの電力をまかなっています。

岡田さんは、「特定の大企業がダムを運営するスタイルが主流な中、どのように地域にメリットのある形で、分散型に転換していけるのかを学びたいと感じ、アカデミーを受講しました」と言います。

現在、近郊では出力2,000メガワットのダム建設計画も進んでいるとのことですが、あまり地域に利益は還元されません。周辺には、歴史的にも抑圧され、厳しい状況におかれた先住民族をはじめとした貧困層も多く、地域内でお金を生み出す新しい仕組みを模索したいとのことでした。

江戸川区での取り組みを検討中の小林さん(中央)(写真:高橋真樹)
江戸川区での取り組みを検討中の小林さん(中央)(写真:高橋真樹)

東京都江戸川区の会社員、小林良さんは、まだ具体的な事業を考えている訳ではありませんが、都会でこそできる省エネや太陽光設備の導入をすすめる取り組みをしていきたいと考えています。他の地域と違って自然が豊かな訳ではありませんが、都会には人がいます。まずはさまざまなネットワークを築き、知恵を出しあうことから始めたいとのことでした。

デメリットをメリットに!自然エネルギー活用法

プレゼンでは、1期生からも熱心な質問が相次ぎ、ともに地域のエネルギー事業を担っていこうとする熱気が感じられました。全4回にわたる講座と発表会を終えた受講生の皆さんは、「すでに現場で頑張っている方々と意見交換したことで価値観が変わった」「地域で事業を進めるということが、こんなに様々な人と関わる必要があるというのは想像できなかった」などといった感想を、口々に語りました。

最後に指南役を務めたISEPの山下紀明さんが「今回はすでに地域で実際動かれている方の参加が多かったという特徴がありました。アカデミーはまだはじまって2期目ですが、すでに各地で実践されている方にとっても学ぶことが多かったという意味では、このプログラムをやってよかったと改めて思いました。皆さんの意見を取り入れて、今後はさらに充実したものにしていくつもりです」と総括しました。

私(高橋)の感想としては、プレゼンも質疑もかなり具体的な内容が多く、すぐに現場で役に立ちそうな、実践的なセミナーの場だと感じました。自然エネルギーの事業は、地域ごとに課題もメリットも異なっているのは当然です。

例えば長野の高齢者ばかりの過疎地で、地域で住民参加のエネルギー事業を盛り上げていこうといっても困難なように思えます。しかし前田さんによれば、長野では年配の方はかつて小水力発電を使用していた事を覚えていたり、身近に薪ストーブがあったりすることで、新しい事業にも理解を得やすいというメリットもあるとのことでした。

このように、不便な土地や、過疎や高齢化といった一般的にデメリットとされている要素であっても、逆にメリットに変えていけるのが、自然エネルギーのひとつの特徴ではないかと思います。このアカデミーから、今までになかったスタイルの地域事業のモデルが、生まれてくることを期待したいと思います。

(取材・記事:高橋真樹 ノンフィクションライター)

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