地域の自然エネルギー事業に取り組むキーパーソンへのインタビュー。今回取り上げるのは、自然エネルギーのポテンシャルデータを分析して、市民にわかりやすい形で提供している分山達也さん(29歳)です。(インタビュー:高橋真樹)

主に地熱研究を進めていた分山さんは、2012年3月に大学院を卒業し、同年4月に「株式会社自然エネルギー・ローカル・エンジニアリング」を立ちあげたばかり。

分山さんが提供したデータは、これまで紹介した長崎の小浜温泉エネルギーのプロジェクトでも活用されています。新たに事業を行う場合に欠かせないデータを、どのように使いこなすのか、そして地域で自然エネルギーを設置する際の合意形成の仕方とは?冷静な語り口の中に、未来への熱い思いを込める分山達也さんに話を伺いました。

分山達也さん(自然エネルギーローカルエンジニアリング)
分山達也さん(自然エネルギー・ローカル・エンジニアリング)

きっかけは、故郷の炭鉱

ーー どのようなきっかけで自然エネルギーの研究に携わるようになったのですか?

私の出身は福岡県大牟田市で、三池炭鉱があったことで知られています。炭鉱が閉山になったのは私が中学生の頃だったと思います。小学校を卒業する前後に、閉山が決まり、徐々に町に活気がなくなっていったのを覚えています。クラスメートの中には他の町に引っ越す人もいたり、ゆっくりと変化していきました。

そんな町で育ったのでエネルギーには興味を持つようになり、九州大学の地球環境工学科に進学しました。はじめは石油を専門にしようと思ったのですが、研究室の一つに地熱があることを知りました。地熱を含めた自然エネルギーは、これからの社会を変えることのできる可能性があることを知って、この研究に賭けてみようと考えました。

地熱研究室の江原幸雄先生から、地熱だけでなくてすべての自然エネルギーについて幅広く勉強したほうが良いと言われたことがきっかけで、GIS(地理情報システム)を使った自然エネルギーの利用可能性(ポテンシャル)分析の研究をするようになりました。Google Mapのような電子地図データを分析し、自然エネルギーが有望な場所を明らかにする研究です。

事業の立ちあげをサポートする

ーー どういった経緯で現在の活動に至ったのでしょうか?

自然エネルギーのポテンシャル調査というのは、私がはじめた2007年当時は、まだ環境省も手をつけておらず、GISデータを使って自然エネルギーの可能性を管理したり、プランニングするという考えは広まっていなかったのです。

研究を始めてしばらくした頃、江原先生から環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長の飯田哲也さんを紹介していただいき、ISEPでインターンをするようになりました。そして、博士課程進学後は、九州大学イノベーション人材養成センターのプログラムに採用され、私とISEPの共同研究を進めることができるようになりました。またその後は、法政大学や名古屋大学とも共同研究するなど場が広がっていきました。

共同研究では、地域での自然エネルギー事業づくりを支援する取り組みに参加し、その中でどのように自然エネルギーのポテンシャルデータを役立てていくのか研究しました。そうした取り組みの中で感じたことは、エネルギー事業には地域や市民の関わりが大事だということはそのとおりなのですが、市民の方がエネルギー事業を手がけるというのは、最初のハードルが高いのです。ISEPでは、そうした人たちをサポートするために行政とからめた仕組みを活用してバックアップしていますが、私自身は、自然エネルギー事業に関する情報の不足を解消したいと考えました。

数年前までは、新規にエネルギー事業を行おうとする場合、NEDO(独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構)に補助金申請して、それが通ったらやっと調査がスタートするようなスタイルが主流でした。スピードも遅いし、補助金も多くはないので、十分なデータも集まらないという状況でした。

だったら自分がきっかけになるデータを提供してしまえばいいと思い、昨年4月に「自然エネルギー・ローカル・エンジニアリング」という会社を立ち上げました。そうしたデータを誰もが使えるようになることで、「皆さん自身でもエネルギープロジェクトを実現できます」と伝えたかったんです。今では、自分の会社が持っている日本全国のポテンシャルデータを、それぞれの地域で活動されている事業者さんや大学の研究者、自治体の方が、各地で有望な自然エネルギーの種類や場所を分析する際に活用していただくようになっています。

日本の自然エネルギーのデータは豊富で、少し分析すれば、現場で使える情報になるものが多いのですが、分析するには時間も予算もかかります。そのあたりをもっと効果的に提供していくことで、事業のスタートを支援することができるのではないかと思っています。

データをどのように活用するのか?

ーー 具体的にはどのように地域の自然エネルギーをサポートしているのですか?

自然エネルギーについては、エネルギーそのものに反対という方はほとんどいません。もっともトラブルになりやすいのは、合意形成のプロセスにある。でもそこは制度化しにくい部分なんです。ではどう対応すればいいのでしょうか? ひとつは、ISEPが提案しているような、地域が主体となってコミュニティパワーを築いていくという選択肢です。

例えば地域の人々が事業への出資比率を高め、株主と同じように意見を言えるようになるという方法です。そういう意味では、制度というよりも、事業の仕組みの作り方で合意形成をはかっていくということが、一番現実的な方法かもしれません。私が行っているポテンシャルデータの提供についても、次にやるべきことはこういった合意形成につなげることだと考えています。

では、どのようにデータを使うかについて説明しましょう。まず、地域の地図があります。(図1)

図1
図1. 地域の地図

そこに森林や農地、居住地などの土地利用計画を投影していきます。(図2)

図2
図2. 土地利用計画データ

これはGIS(地理情報システム)といって、一般に公開されている情報です。さらにNEDOの風況マップのデータを重ねてみる。(図3)

図3
図3. 風況マップデータ

この時点で、風況は風力発電に適していても農地だと風車は建てられないとか、見えてくるわけです。

さらに道路から近くて、居住地域からは遠いなどといった条件を加えると、ポテンシャルのある場所は絞られてきます。低い風速でもよければ立地できる場所は多いけれど、事業性を考えるとここしか立地できないということがわかります。

このようなデータを地域で共有して、写真やコメントを投稿することで、さらに精度の高いレポートをつくり、それを土台に検討を進めることが可能になります。この方法は現在、名古屋大学と共同で研究を進めています。

地域事業のカギは合意形成

ーー 地域で自然エネルギーを進めていく上での課題とは?

北欧などの自治体では、すでにデータを活用して風力発電のゾーニング(空間立地計画)を行っています。個別の計画を進める前に、あらかじめ市民の意見を取り入れ、市内のこの地域とこの地域は風力発電エリアにすると設定するのです。先に風車を作る地域をどこにしましょうか、という投げかけを市民にしておくことで、合意が得やすくなるし、事業者を呼びやすくなります。自治体は、事業の主体になるのではなく、枠組みをつくって事業をサポートするという立場です。事業者には、この条件でもよければ設置できるし、自治体がサポートしますよと声をかけます。

ヨーロッパでは、このように統合した計画のもとに開発が進められますが、残念ながら日本は個別の事業で一つ一つバラバラの計画で進めています。いきなり「あそこに風車が建つらしい」という話から始まるので、合意も難しくなります。

私は、日本でもポテンシャルデータを活用して、ゾーニングを含めた制度の導入につながるような形を事業にできたらと考えています。それがうまくできると、従来の対立構造も少なくなるでしょう。

海外ではGISをやってると言えばすぐにわかってくれますが、日本ではまだまだですね。そのようなデータを、従来のように専門家しか使えないものではなく、一般の市民が使いやすいように提供していきたいと思っています。事業としてはまだまだこれからですが、なんとか形にしていきたいと思います。

福島第一原子力発電所の事故があって、今まさにエネルギー政策の転換期を迎えていますが、今度は自然エネルギーへの転換で日本のいろいろな地域と人々を元気にしていくような変化にしたいですね。かつて炭鉱があった町の経験を学びつつ、時代に合った新しいやり方を模索していくべきかなと思っています。

お問い合わせ

株式会社自然エネルギー・ローカル・エンジニアリング
〒810-0031
福岡市中央区谷1-9-13
Email:info001@rel.co.jp
URL:http://rel.co.jp

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(取材・記事:高橋真樹)

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