全国ご当地エネルギー協会リレーエッセイ8
NPO法人九州バイオマスフォーラム 理事 大津愛梨氏
東京で育った私が、縁あって九州で農業をすることになったのは11年前のこと。子供ができたら自然の中で育てたいと思っていた私にとってその選択肢はさほど驚くようなことではなく、むしろ、後継者がいないことを憂いていた義祖父から「農家じゃやっていけない」と反対されたことに私の方が驚いたほどでした。結婚後に留学していたドイツで、「農家は食べ物も風景もエネルギーもつくる存在」である社会をじっくりと見てきた私たちは、農業・農村の将来性を感じながら、希望をもって夫の郷里である南阿蘇で就農しました。
その冬にはNPO法人九州バイオマスフォーラムを設立。全てにおいてドイツの方が進んでいる訳ではないのですが、チェルノブイリ原発事故を機に国策として再生可能なエネルギーの普及に取り組んできたドイツから学ぶべきことはたくさんあります。農家が「エネルギー生産者」にもなることは、日本でも可能なはずだと感じていました。
阿蘇が国立公園に指定されてから今年で80年。昨年には国連の機関から「世界農業遺産」にも認定されました。ところが高齢化や家畜の減少ため、草原の面積は減り続けています。草原は人間が使うからこそ維持されてきたもの。草に新たな利用価値があれば草原は守られるはずです。私たちは阿蘇市に呼びかけ、平成17年からの5年間、国の実証実験事業として全国初の「草発電」に取り組みました。ところが、欧米と違って傾斜のきつい斜面から草を集めるのはコスト高。結局、実験終了1年後から稼働はストップしていますが、成果もありました。地元の農家が、「草は資源」と認識したのです。
そして時代が変わりました。新しいエネルギーの必要性は誰の目にも明らか。草だけでなく、木や家畜の糞尿、それに観光施設等から出る生ごみも「資源」だということに、皆が気づき始めています。私たちは再び立ち上がりました。目指すはエネルギーの地産地消。太陽光発電や風力発電と違い、バイオマス発電はランニングコストがかかるため、事業化には相当の工夫がいります。しかし実現すれば、農家の副収入や農村の活性化に最も貢献するエネルギー事業です。環境省の支援を受けて南阿蘇での事業化を検討し始めて3年目。九州における固定価格買取制度の今後がどうなっていくか不安視されているところですが、資源の豊かなこの国で「農村でつかうエネルギーを農家がつくる」という大きな夢に向かって精進する毎日です。
『新エネルギー新聞』第10号(2014年10月6日)掲載