全国ご当地エネルギー協会リレーエッセイ3

ほうとくエネルギー株式会社 取締役副社長 志澤昌彦氏

夏休みのワークショップで子供たちと触れ合う志澤氏
夏休みのワークショップで子供たちと触れ合う志澤氏

きっかけは3.11でした。東北地方を襲った地震と原発事故の影響は、300km以上離れた小田原にも及びました。計画停電で街は真っ暗になり、箱根へ続く国道からは車の姿が消えました。この時、今まで信じていた電力というシステムがいかに脆弱であるかを悟りました。私たちの生業は、安心安全を大前提にしてこそ成り立っていたという事実を身を以て知ったのです。

エネルギーを「他人ごと」ではなく「自分ごと」として考える。

市民と地元企業・行政は同じ思いを抱いたことから、私たちは地域による地域のための再生可能エネルギーへの第一歩を踏み出しました。

2011年12月、小田原市が中心となり「小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会」が発足。小田原における再生可能エネルギーのポテンシャル調査はもとより、事業計画の立案までを1年間でまとめ上げました。また、再生可能エネルギーの持続可能な発展のためには、事業計画はもとより、地域の人々がオーナーシップをもって再生可能エネルギーに取り組んでいくことこそが最も重要なポイントであるとの結論に達しました。

この考え方に基づき、小田原の地産地消のエネルギーを目指す「ほうとくエネルギー株式会社」が地元企業24社の出資により誕生しました。(現在、出資企業は38社まで拡大)ほうとくエネルギーが、現在進めているプロジェクトは「(仮)小田原メガソーラー発電所」と「公共施設への屋根貸し太陽光発電所」です。発電量は全部で1.1MW、戸建住宅350軒分に当ります。この太陽光発電所の資金調達の一部として、小田原をはじめ全国の方が参加できるように「市民出資」を今年1月に募集しました。予定金額1億円がわずか4ヶ月で集まったことには本当に驚きです。しかも地元が半分以上の割合を占めたことは、まさに地域が主体となった再生可能エネルギーへの関心の高さをあらわすものです。

「ほうとくエネルギー株式会社」の名前は、小田原出身の郷土の偉人である二宮尊徳翁の「報徳思想」から名づけられました。二宮尊徳翁は、あらゆる人やものには「徳」があり、この徳を引き出して世の中のために役立てる「報徳」の教えを説き、江戸時代に飢饉で苦しむ地域の再生を果たしています。

この教えをもとに、ほうとくエネルギーは、「地域に眠っている「徳」としての水、光、木、熱などの資源を自ら掘り起こし、自分たちが本当に必要としているエネルギーの分内で生活や営みを立て(分度)、そこから生まれる利益を子孫に譲り(推譲)、さらに恩に報いていく」ことをコンセプトにしています。

将来世代に、地域のより良い環境を引き継ぎ、未来のために行動することを目的にほうとくエネルギーは、日々前進しています。

屋上に太陽光パネルを設置した小田原市立富水小学校
屋上に太陽光パネルを設置した小田原市立富水小学校

『新エネルギー新聞』2014年7月28日掲載