2012年に誕生した一般社団法人徳島地域エネルギーは、現在太陽光発電を事業の柱としつつ、風力や小水力、そしてバイオマス利用も同時に模索しています。2014年5月現在に稼働中もしくは2014年度に稼働予定の設備は18カ所に合計出力12メガワット(12,000キロワット)。徳島を訪れ、収益を地域に還元する自然エネルギーの仕組みについてうかがいました。(取材・記事:高橋真樹)

佐那河内みつばちソーラー発電所(写真:高橋真樹)
佐那河内みつばちソーラー発電所(写真:高橋真樹)

寄付と名産品を組み合わせた「コミュニティハッピーソーラー」

徳島地域エネルギーの関わる発電所が、短期間のうちに県内各地に広まった秘密は何でしょうか?理由の一つに、設備の多くは徳島地域エネルギー自身が事業主体ではないという点にあります。一部を除けば、県内のそれぞれの地域ごとに事業主体があり、徳島地域エネルギーは専門家としてアドバイスをしたり、ノウハウを提供するという立場から関わっています。

それぞれの地域には自然エネルギーを手がけたいと考える人はいるのですが、大半は資金集めから設置にいたるまで、どうしていいかわからないのが実情です。そのため、従来は都市部の大企業にまかせきりになってしまい、利益のほとんどが地域に残らないプロジェクトが散見されました。しかし、徳島地域エネルギーが、誰でも参加できる枠組みをつくり、収益を地域に還元するモデルを示したことで多くの自治体や企業、市民グループがこうした事業で主体を担うようになってきたのです。そのモデルが「コミュニティハッピーソーラー」です。

これは、金融機関からの融資または自治体の資金に寄付金を加えて太陽光発電を設置、売電収益を地域に還元するとともに、寄付してくれた人には見返りとして地域の特産品を送るという仕組みのものです。

徳島地域エネルギーのメンバー(写真:高橋真樹)
徳島地域エネルギーのメンバー(写真:高橋真樹)

例として、2014年3月に稼働を始めた、「佐那河内みつばちソーラー発電所」(出力120キロワット)を紹介します。この発電所は、県で唯一の村である人口3,000人ほどの佐那河内村(さなごうちむら)の村有地に設置されたもので、こちらは徳島地域エネルギーが事業主体になっています。

総事業費約4,000万円のうちの300万円を寄付金でまかなっています。寄付金は、一口1万円で300口を募集したところ、県民を中心に2ヶ月でいっぱいになりました。寄付した人には、発電の状況に応じて佐那河内村の特産品であるキウイやイチゴ、スダチなどが届くことになっています。事業者がこの特産品を地域から購入することで、地域の産業を応援することにつながります。また売電収入の一部は、村の地域振興の財源として直接的に村に還元されることになります。

佐那河内村には、国と民間企業が建設した15基の風車が2008年から稼働しています。しかし、村への収益は固定資産税が入るのみで、直接的なメリットはほとんどありません。一方で、コミュニティハッピーソーラーは村の財政や産業振興に結びつけることができるため、同じ自然エネルギー設備でもまるで意味合いが違ってくるわけです。

コミュニティハッピーソーラーの仕組みは評判となり、鳴門市、那賀町牟岐町など県内各地でさまざまな事業主体のもとで計画されるようになっています。この仕組みを考案した徳島地域エネルギー理事の豊岡和美さんは「自然エネルギーでは雇用は生まれないと言われますが、仕組みのつくり方次第でどうにでもなります。コミュニティハッピーソーラーのような仕組みを活かして、それぞれの地域が食べていけるようにしていきたいと思っています。そうなればもっと地方が元気になって、分散型の社会が実現できるのです」

吉野川可動堰反対運動の経験

コミュニティハッピーソーラーをはじめ、次々とユニークなアイデアを実現している徳島地域エネルギー。豊岡さんら中心メンバーの原点には、1990年代後半から携わってきた吉野川の可動堰反対運動がありました。

吉野川可動堰問題は、江戸時代から伝わる農業用水のための石積みの「第十堰」をコンクリートの「可動堰」に造り変えるという計画を、国土交通省が計画したことに始まります。その工事費は1,000億円以上で、周辺の環境に与える影響も懸念されました。そこでこれに反対する住民運動が立ち上がり、普通の主婦であった豊岡さんもこれに加わりました。そして多くの支持を集めた住民運動は、紆余曲折を経て2000年に徳島市で住民投票を実現させます。投票率は55%で、うち反対意見が91%でした。運動はその後も継続的に行われ、2010年には、当時の国土交通大臣による可動堰中止宣言が出されるに至っています。(※)

豊岡さんら運動に関わったメンバーは、「可動堰反対運動」には勝利しました。しかし、大変な労力と時間を費やして「無駄な公共事業」の一つを止めても、「地域への経済効果」の名の下に同様の計画は「もぐら叩き」のように後から後から出てきます。「ここで市民運動の良い点とともに、大きな課題も学んだ」と語る豊岡さんは、何人かの仲間たちとともに「市民運動」「反対運動」とは違う方法で地域再生の動きを探るようになっていきました。

※ ただし行政手続きとしての中止はまだ決定していない

地域を豊かにする自然エネルギー

自然エネルギーに取り組むようになったきっかけは、2009年に訪れた高知県檮原町(ゆすはらちょう)への視察でした。檮原では、町の財源にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と電力会社からの補助金を加え、2基の風車を設置。その売電収益を町の環境基金に蓄え、太陽光発電の設置や森林間伐の補助金などの環境政策に使用しました。それにより、檮原は過疎と高齢化が進んでいるのにも関わらず、借金もなく、市町村合併もせずに独自の道を歩むことができました。

豊岡さんは「無駄な公共事業や放射性廃棄物の受け入れに象徴されるように、自分自身で地域経済を回していく仕組みをつくらなければ、地方はいつまでたっても中央の食い物にされてしまう」という危機感を感じていたこともあり、自然エネルギーの利用を通して地域を豊かにする檮原の取り組みに、多いに刺激を受けたといいます。

そして、2012年7月から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)がはじまることを見越して、2011年12月に徳島再生可能エネルギー協議会を設立します。自治体や金融機関も協力している同協議会は、平成24年度の環境省地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務に採択されています。さらにその事業をすすめるために2012年3月に誕生したのが一般社団法人徳島地域エネルギーです。徳島地域エネルギーは、電力供給を行うことができる特定規模電気事業者(PPS)としての登録もしています。

エネルギーシフトを実現した北欧では、各地にエネルギーの専門家のいる「地域エネルギー事務所」が設けられ、さまざまなアドバイスを行いました。徳島地域エネルギーも、そのような存在になることをめざして設立されました。

さくら診療所に設置されたバイオマスチップ供給設備(写真:高橋真樹)
バイオマスチップ供給設備(写真:高橋真樹)
さくら診療所に設置されたバイオマスチップボイラー(写真:高橋真樹)
さくら診療所に設置されたバイオマスチップボイラー(写真:高橋真樹)

徳島地域エネルギーの取り組みは太陽光発電だけではありません。徳島県の自然エネルギーの設備容量は全国で40位(2012年現在)で、現状では低い方です。しかし山や川の豊富な県内は自然エネルギーの資源が多く、小水力発電の適地が各地に存在します。そこで徳島地域エネルギーでは、徳島小水力利用推進協議会と連携して、佐那河内村をはじめ県内各地で設備設置のアドバイスや準備を進めています。また、ペレットストーブの導入を柱とした木質バイオマスの熱利用についても今年度中の事業化をめざしています。その先駆けとして、理事のメンバーが院長を務めるさくら診療所に、オーストリア製のバイオマスボイラー2台を設置。診療所と高齢者施設の暖房に役立てています。今後も、風車建設も含めて多様なエネルギーを活かす試みが続きます。

キーパーソンからのメッセージ

豊岡和美さん(徳島地域エネルギー)

豊岡和美さん(徳島地域エネルギー理事)

”長年、いわゆる市民運動や反対運動を続けてきたからこそわかるのですが、無理をしても長続きしません。そして「理念」とか「思い」だけになってしまうと、多くの人を巻き込めない。関わる人みんなにメリットがあって、長く続けて行くことの出来るスキームをつくろうという思いでやってきました。そのためには実利をどうつくるかが大切で、寄付の見返りに特産品を送るというアイデアもそこから生まれました。
こうした動きが徳島だけでそれが広まっても「特殊な例」とされてしまいます。でもこの取り組みは他の地域でも十分できることなので、ぜひマネをして欲しいと思います。講演などでそう語ると「徳島は人材がそろっているから…」と言われたりします。でも私たちもエネルギーの取り組みをはじめたのは最近のことです。できるポテンシャルのある地域はいっぱいあるのに、やらないのは本当にもったいない。ぜひチャレンジして欲しいですね。”

お問い合わせ

一般社団法人徳島地域エネルギー

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

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