国内外で地域に根ざした自然エネルギーの普及に取り組む人々が集う「コミュニティパワー国際会議2014in福島」(主催:環境エネルギー政策研究所)が、1月31日から3日間にわたって開催されました。2012年に東京で、2013年には山口で開かれたこの国際会議。3回目となる今回は、福島原発事故からまもなく3年という節目に、その福島から自然エネルギーへの転換を発信する、とても意義の大きな会議となりました。

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日本全国・世界各地で自然エネルギーに取り組む人々が一堂に会した(写真:高橋真樹)

国内外で地域に根ざした自然エネルギーの普及に取り組む人々が集う「コミュニティパワー国際会議2014in福島」(主催:環境エネルギー政策研究所)が、1月31日から3日間にわたって開催されました。2012年に東京で、2013年には山口で開かれたこの国際会議。3回目となる今回は、福島原発事故からまもなく3年という節目に、その福島から自然エネルギーへの転換を発信する、とても意義の大きな会議となりました。

会議は、浜通りの南相馬市、中通りの福島市、会津地域の喜多方市と、福島の3地域の会場を移動しながら実施することになりました。全国から集まった参加者はのべ650名、またドイツやデンマークなど6ヶ国、12名の海外ゲストが参加することになりました。

会議では全体会の他にも8つの分科会が開催され、地域で自然エネルギーを導入する際に課題となる「リーダーシップ」「人材育成」「ファイナンス」などをテーマに、熱心な議論が交わされました。最終日には、「福島コミュニティパワー宣言」が採択され、その実現に向けた動きが立ち上がるなど、新たな展開もはじまっています。

原発事故に翻弄される南相馬

初日にタウンミーティングを行った南相馬市は、事故を起こした原発から近く、一部は避難区域に設定されている場所です。自然エネルギーに取り組む際も、放射能の影響を考慮する必要があります。ここで、自然エネルギーの活用を通じて町の復興をめざしているのが「えこえね南相馬研究機構」です。

同団体は、除染を含めた多岐にわたる活動を行っていますが、中でも特に期待されているのが、農地と太陽光発電の共存をめざすソーラーシェアリングです。放射能の影響で農作物の生産が難しくなった土地は、そのままにしておけばずっと農地としては使えなくなってしまいます。そこに実験的に作物を育てながら、太陽光発電を設置することで、土地も荒れ放題にならないし、農家の収入にもなるという構想を描いています。まだまだ実験段階ではありますが、えこえね南相馬理事長の高橋荘平さんは、

”除染だけしていても地域は良くなりません。取り組みを通じて、子どもたちが面白いと思える夢のある社会にしていきたい。”

と語りました。

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えこえね南相馬研究機構理事長の高橋荘平さん(写真:高橋真樹)

こうした取り組みに対して「世界風力エネルギー協会」の事務局長であるステファン・ゼンガーさんは、このようにコメントしました。

“社会的な危機や、生命の危険にさらされる状況を経て、皆さんが行動を起こしたことに大きな価値を感じています。世界には、自然エネルギーへの取り組みを通じて地域の絆を強くしたという例はいくらでもあります。南相馬の活動を世界の見本になるような形にしていって欲しいと思っていますし、そのために私たちもいくらでも協力したいと思います。皆さんは、孤独な存在ではありません。”

世界風力エネルギー協会事務局長のステファン・ゼンガーさん
世界風力エネルギー協会事務局長のステファン・ゼンガーさん

南相馬会場では、オーストラリアで初の市民風車を設置した「ヘップバーン風力協同組合」のタリン・レーンさん※ が講演をおこないました。国や自治体が自然エネルギー推進に熱心ではない中、どのように地域の人たちが合意をつくりながら風車を設置したのかについて語りました。また、稼働後の収益を地域のために活用し、今では地域のシンボルになっている状況も伝えてくれました。

タリン・レーンさんのお話については、別途行ったインタビューで詳しくお伝えします。

ヘップバーン風力協同組合のタリン・レーンさん(社員:高橋真樹)
ヘップバーン風力協同組合のタリン・レーンさん(写真:高橋真樹)

会議の終盤には、昨年春にオーストラリアを訪れ、ヘップバーン市民風車について学んだ南相馬市の中学生5名から感想が発表されました(オーストラリア訪問の記録はこちら)。原町第一中学校2年生の石橋尚美さんは、

“事故が起きるまでは、原発が自然にも優しくて安全だと思っていました。でもオーストラリアで風力発電所を訪れ、ぜったいに風力発電の方が良いと思いました。南相馬でも原発より自然エネルギーを活用した方が良いと思いました。”

と語りました。震災当時小学校6年生だった小高中学校3年生の天尾水樹さんは、あと数日で卒業して、同級生たちと同じ中学校に通う予定でした。

“原発が爆発して、友達はバラバラになり、家に帰ることもできません。このように悲しい思いをする子どもたちを、減らしていきたいと思います。オースラリアで学んだことを活かして、地域の将来をになう一人になりたいと思っています”

昨年ヘップバーン市民風車を訪れた南相馬市の中学生たち(写真:高橋真樹)
昨年ヘップバーン市民風車を訪れた南相馬市の中学生たち(写真:高橋真樹)

成長した子どもたちに再会したタリン・レーンさんは次のようにコメントを返しました。

“感想を聞いて感動しました。悲しみはあると思いますが、皆さんの地域にある資源を活用して、コミュニティ・エネルギーを広げていってほしいと思っています。忍耐強い人々こそが強いエネルギーをつくっていくことができるのです”

南相馬市の中学生とタリンさんの再会(写真:高橋真樹)
南相馬市の中学生とタリンさんの再会(写真:高橋真樹)

全国のご当地電力が大集合!

2日目は福島市で開催。基調講演で「世界未来協議会」のステファン・シューリグさんが「100%自然エネルギー社会の実現」をテーマに講演しました。ドイツを含む世界の自然エネルギー普及に尽力してきたステファンさんは、地域の人たちが参加して現状を変えていくことの大切さについてこのように語りました。

“新しいことをやろうとすると、専門家は『そんなことは不可能だ』と言うかもしれません。例えばドイツでも、電力会社は『自然エネルギーの電力は10%以上は送電網に入れられない』と言ってきました。でも、現在ドイツでは25%まで技術的に可能となっています。社会がそれを求めれば、技術は後から追いついてきます。日本でもそれはできるのです。民主主義にとって大切なことは、多くの人の参加することです。地域の人が参加すれば、自然エネルギーの普及が加速します。ただ単に発電設備をつくれば良いわけではありません”

世界未来協議会 気候エネルギーディレクターのステファン・シューリグさん
世界未来協議会 気候エネルギーディレクターのステファン・シューリグさん

続いて行われたパネルディスカッションでは、慶応義塾大学の経済学者である金子勝さんが、一件現実的に見える原発がいかに非現実的かについて語りました。

“原発に頼らなくてもやっていけるという消極的な姿勢ではなく、私は原発なんかやっていたら経済がダメになると言いたい。では原発をやめた先の未来に何が来るのか。単に自然エネルギーを増やすというだけでは少し寂しい。ここにいる人が参加して、コミュニティパワーに代表されるような新しい社会システムをつくっていく役割を果たして欲しいと思います。そうした一見すると非現実的に思えるような夢が、実は一番現実的なのです”

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「一見すると非現実的に思えるような夢が、実は一番現実的」と語る金子勝さん(写真:高橋真樹)

2日目の最後には、日本全国から集結した「ご当地電力」に携わる人々が壇上に上り、名乗りを挙げました。日本初の市民風車をつくった北海道グリーンファンドのように、すでに長い実績のある団体から、これから地域で立ち上げたいと考えているグループまでさまざまです。

しかし、いずれも自分たちの力で、エネルギーに取り組んでいきたいという思いは共通しています。この会議に参加したグループ以外にも、日本全国でそのような活動を行っている人たちが増えています。震災から3年の間に次々とこうした活動が立ち上がったことがよくわかり、海外ゲストからも驚きの声が上がりました。

「福島コミュニティパワー宣言」を採択

最終日は、昨年誕生した「会津電力」の拠点である喜多方市で開催されました。この日の基調講演は、会津電力誕生のきっかけをつくった赤坂憲雄さん(「ふくしま会議」代表理事)が、福島で自然エネルギーを広める意義について触れました。

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福島から自然エネルギーをはじめることの意義を語る赤坂憲雄さん(写真:高橋真樹)

“いま、福島の地に踏みとどまって生きていくということは何を意味するのでしょうか?犠牲者としてこの地に残るだけでは、生きる誇りが認められません。全く新しい暮らしや生業のスタイルを、この福島の地から創造していく、そういう思いと覚悟がなければこの地で生きていくことができない”

そしてこう結びます。

“新しい福島の未来をつくっていくそのよりどころとして、自然エネルギーがあると思います。これは、新しい自由民権運動なのです”

自由民権運動は、明治維新後の官僚政治に反対の声を挙げる人々が起こしたもので、会津はその発祥地とされています。赤坂さんはそれと同様に、この地から次の社会をデザインしていくための議論を重ね、福島から発信していくべきだと語りました。各分科会のまとめが報告された後、最後に採択された「福島コミュニティパワー宣言」には、次のような文言が入りました。

“福島はいま、再生可能エネルギーを携えて、始まりの土地になろうとしている。そして、福島が率先して変化を起こすことで、日本各地が変わり、世界が大きく変わってゆくにちがいない”

原発事故で深く傷ついた福島から発せられたメッセージには、単に自然エネルギーの普及をめざすのではなく、新しい未来を国内外の人々とともに創造していこうとする、強い決意と覚悟が込められています。宣言の結びは、「このネットワークを活かして、『21世紀の電事連』を立ち上げる」「福島コミュニティパワー基金を立ち上げる」など、エネルギーシフトのための具体案も提案しつつ、「いま、ここから歴史を変える」という言葉で締めくくられました。この宣言に基づいた行動は、すでに動き始めています。

福島各地をめぐり、3日間にわたって行われたコミュニティパワー国際会議。プロジェクトを実現しつつある人、これから行動を起こしたいと考えている人たちにとって、次のステップにつながる貴重な場となりました。来年の会議までには、新たにどんな「ご当地電力」が立ち上がり、どんな展開になっているかが今から楽しみです。

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

全国ご当地電力レポート