ご当地エネルギー協会の会員団体である二本松営農型ソーラー株式会社は、2021年秋、国内最大規模となる営農型太陽光発電を建設しました。2021年11月19日(金)にその竣工式がおこなわれ、ISEP研究員とインターン2名が現地を視察しました。この記事では、当日の様子をお伝えします。

取材・テキスト:大仁田千晶、亀山晋平 編集:古屋将太

営農型太陽光発電について

営農型太陽光発電とはその名の通り、農業活動と太陽光の発電を同じ土地で同時におこなうものです。2013年度に正式に農林水産省に認められ、全国で導入件数が増えています。農林水産省の調べによると、2013年度に96件だった営農型発電所の農地転用許可件数は2019度年に合計2,653件と大幅に増えています。また、単年度導入件数で見ると、2019年度は661件で過去最多となりました。

日本には大規模な営農型太陽光発電所は少ないものの、比較的小規模なものが多く導入されています。都道府県別で見ると、1位千葉県(370件)、2位静岡県(367件)、3位群馬県(255件)となる一方で、近畿地方や九州地方では一桁台に留まり、関東地方を中心に普及が進んでいると言えます。

制度上、営農型太陽光発電に取り組むには太陽光パネルの下部で農作業を続ける必要があります。さらに、農地法により、3年毎に農地転用の許可を取る必要があります(一定の条件を満たせば10年毎)。国内では太陽光パネルを設置後、適切に営農がおこなわれていない事例も残念ながら確認されています。2050年のカーボンニュートラルに向けて大きな役割を担うことを期待されている営農型太陽光発電ですが、課題もあります。

参考:農林水産省「営農型太陽光発電について

笹屋営農型太陽光発電農場

福島県二本松市内で耕作放棄地となっていた土地を整備し、二本松営農ソーラー株式会社が導入した笹屋営農型太陽光発電農場は、国内最大規模の営農型太陽光発電事業です。敷地6.8ha、出力1,930kW、年間およそ618世帯分、電気自動車1,855台分の発電電力量が見込まれ、東北電力などに売電します。

株式会社Sunshineが営農を担い、シャインマスカットやエゴマなどの栽培を予定しています。このプロジェクトは二本松ご当地エネルギーをみんなで考える株式会社(ゴチカン)、みやぎ生活協同組合(みやぎ生協)、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の共同出資により実現しました。

竣工式当日の様子

早朝に新幹線で東京駅を出発。インターンは今日までおこなってきた営農型太陽光発電に関する事前リサーチの成果を共有し、インタビュー用の質問リストを作成しました。

午前9時過ぎに新幹線で郡山駅に到着。駅から発電所まではISEP研究員の田島さんに車を出していただきました。田島さんは国内外の営農型太陽光発電に関する研究に携わっており、移動中にインターンからの質問に答えていただきました。Q&Aセッションを通して、日本における営農型太陽光発電のポテンシャルの大きさとともに、拡大に立ちはだかる壁をより深く理解することができました。以下は議論の中で特に印象に残ったポイントです。

  • 農地における太陽光発電は、平地の少ない日本において持続可能な再生可能エネルギー拡大の手段として有効である。
  • 営農型太陽光発電による売電収入で農家経営は安定する。しかし、設備が土地に与える影響への懸念や農外収入に対するネガティブなイメージから懐疑的な農家も多く、未だに理解は広がっていない。
  • ヨーロッパでは、ドイツなど営農型太陽光発電を推進している国があるが、日本は認知度、制度面ともに遅れをとっている。例えば、導入経験の乏しい地域で事業申請をおこなう際、他地域に豊富な事例があっても担当職員の判断で却下されてしまう場合がある。

昼前に竣工式がはじまり、参加者全員で記念撮影。和気あいあいとした雰囲気で、みなさん嬉しそうでした。

グループに分かれてブドウの植樹式をおこないました。「シャインマスカット」と「ウインク」の交配によって生まれた「マイハート」の苗木を植樹しました。「マイハート」は、名称の通りハート型の実をつけることで知られています。収穫は4年後を予定しています。

営農を担う株式会社Sunshineは、近藤恵さん(二本松営農ソーラー株式会社代表取締役)と大内督さん(二本松有機農業研究会代表)が代表を務め、塚田晴さんと菅野雄貴さんが若手スタッフとして加わりました。インターンと同世代で19歳の塚田さんは、震災による県外避難からの帰還者でもあります。

株式会社Sunshine の塚田晴さん(左)菅野雄貴さん(右)

最後に、近藤さんからのスピーチがありました。原発事故を経験した福島を自然の力・太陽の力で復興させるのだという決意みなぎるスピーチが印象的でした。

閉会後はテレワーク中のインターン生と現場をZOOMでつなぎ、田島さんから営農型太陽光発電に関するレクチャーを受けました。

地元で作られた豪華なお弁当を参加者全員分用意していただき、近くの公園で美味しくいただきました。竣工式の序盤に記念撮影した写真は地元の鈴木心写真館の方々がその場で印刷し、参加者全員にプレゼントしてくださいました。

インターンの感想

今回、人生で初めて大型ソーラー施設の現場を訪れました。再生可能エネルギー施設の写真や動画はインターンシップ中にたくさん目にしますが、実際に赴いてみるとそのリアルな迫力が実感できて興味深かったです。

 

福島県二本松市は東日本大震災と原発事故により甚大な被害を受けた経緯があります。大きな困難を経験したからこそ、クリーンエネルギーとその下でおこなう農業の拡大を通して新しい福島の未来を創造していく。今回の営農型ソーラー事業には、関係者の方々の復興への希望や決意が込められていると感じました。

 

また、竣工式では若い世代の活躍が光っていました。特に、同施設で農業を営む同世代の塚田さんは、風評被害に苦しむ故郷福島の農業を目の当たりにし、生産者として復興の役に立ちたいと決意されたそうです。塚田さんが再生可能エネルギーと農業を通して地域に貢献する姿を見て、自分自身も信念を持ってキャリアを歩んでいきたいと感じました。

 

最後に、今回の竣工式とその道すがら田島さんに伺ったお話を通して、営農型太陽光発電は国内における持続可能な再生可能エネルギーの普及方法として大きなポテンシャルがあると感じました。もちろん、営農との両立や適切な開発がなされない事例が存在することも事実ですが、現状では潜在的に良い事業さえ先入観や制度的な障壁から十分な普及に至っていないのではと感じました。営農型ソーラー発電をより多くの方々に知っていただくためにも、今後はより積極的な発信をおこなっていければと思いました。

大仁田千晶
大仁田千晶

 

今回の営農型太陽光発電施設への訪問は非常に印象に残るものでした。大仁田さんと同じく初めて現場を訪れたという点に加え、写真を見るだけでは体験できないインパクトを味わうことができました。

 

また、竣工式では臆することなく堂々と成果を発表し、テレビ局のインタビューにも答える同世代の姿を見て非常に影響を受けました。強い思いがあれば、年齢は関係ないことを体現している存在でした。私もエネルギー関連の職に就き、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献したいと強く思うだけではなく、行動に移していきたいです。

 

笹屋営農型太陽光発電農場はまだ準備中とのことだったので、パネルの下一面に広がるぶどう園をいつの日か再び見学に来たいと思いました。私のように現場に訪問することによってエネルギー問題により関心を持つ方は非常に多くいらっしゃると思います。

 

今後も笹屋営農型発電農場の成り立ちや実際の現場を数多くの人に見ていただき、少しでも興味を持つ者が増えるような取り組みがあれば、日本のエネルギー問題も解決に向けてスピードアップするのではないかと感じました。

亀山晋平
亀山晋平