福島第一原発事故を受けて、中川智子宝塚市長は国や電力事業者にこれまでの原発推進を見直すように要請するなど、積極的に行動を起こしてきました。一連の動きの中で、市としても原発に頼らないエネルギー自給をめざす部署として新たに設置されたのが、新エネルギー推進課(2012年4月設立)です。(取材・記事:高橋真樹)
概要
担当部署:宝塚市新エネルギー推進課
拠点:兵庫県宝塚市
カテゴリー:自治体
設立のきっかけと事業概要
中川市長は、地方自治体が自然エネルギーを推進するために取り組むべきことなどを環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長・飯田哲也さんにアドバイスを求めました。そのことをきっかけとして、新エネルギー推進課の設置やISEPと自然エネルギー導入推進のための包括委託契約を結ぶことになります。
行政が単独でプロジェクトを進めるのではなく、市民参加を重視するISEPの助言のもと、まずは人が集まり、取り組みをはじめる「場」を作ることから取り掛かりました。2012年度上半期には飯田さんと市長の公開対談、3週に渡る連続セミナー、また、下半期には、懇談会を3回実施し、のべ625人の参加者が、自然エネルギーを学び、地域にとってどのように自然エネルギーを増やしていくべきかについて語り合いました。
その集まりが、市民や事業者、NPOなどをつなぐ場として発展し、市民発電所稼働への後押しになりました。また、懇談会の最終回には、参加者から1年間の場づくりに対して、賛辞や感謝の意を伝える発言が相次ぎました。
また、新エネルギー推進課はネットワークの輪を広めるために自治体の課単独としては全国でも珍しいFacebookページを開設、また、勉強会の開催や先進地視察なども積極的に実施しています。
2013年7月には、議会の承認を得て2,520万円からなる「再生可能エネルギー基金」を創設。公共施設への太陽光発電の導入や、市民と連携した発電所づくりに向けた調査、検討を進めています。
特徴
宝塚市としては、小学校の屋根に設置した出力19kWの太陽光パネルが2013年3月から学校発電所として売電を開始していますが、新エネルギー推進課が主体となってできた発電設備は2013年10月現在ありません。
しかし、宝塚市では、そもそものコンセプトとして、地方自治体が事業主体になるのではなく、市民や事業者、NPOの活動を支えるという姿勢が徹底されています。
全国では、地方自治体が主体となって自然エネルギーのプロジェクトを手がけるケースは数多くありますが、その大半は国や県からの補助金頼りの事業になっています。宝塚市新エネルギー推進課は「補助金に頼らない自然エネルギー推進」を選択したという点で、自治体の新しいモデルケースになる可能性があります。
そして、新エネルギー推進課設置と時を同じくして誕生したのが、「NPO法人新エネルギーをすすめる宝塚の会(REPT)」です。「すすめる」は「進める」「薦める」「勧める」などの想いが入っていて、REPTの前身となる団体が提出した「自然エネルギーによるまちづくり」の請願は、市議会で採択されています。
REPTは、2012年12月に手作りで太陽光パネルを設置し、2013年1月に市民発電所「宝塚すみれ発電所第1号」(出力11,16kw)を稼働させました。そして、2013年11月には、更に出力の大きな2号機(47.88kW)を設置し、11月16日に多くの市民が参加して点灯式をおこないました。
地域に自然エネルギーを普及するにあたって、行政と市民、事業者、NPOなどが、それぞれの特徴を活かし、役割分担をしながら、地域全体で自然エネルギー普及に取り組んでいくことは、出力規模以上に大きな価値があるはずです。
今後は基金が創設されたこともあり、新エネルギー推進課がサポートする事業がさらに展開する可能性がより広がりました。持続可能な地域をつくるためにどのような方法を取るのか、地方自治体として自然エネルギーを導入推進していくための取り組みは続きます。
キーパーソンからのメッセージ
政処剛史さん(宝塚市新エネルギー推進課課長)
”新エネルギー推進課を設置する際、最小限のスタッフと予算に対する議会から受けた反対討論や、課の設置当初、市民の方へ課のビジョンを明確に示せなかった時の失笑などの記憶は現在でも頭から離れることはありません。庁内の仲間からでさえ「3人で何するん?」「市で何ができるん?」など冷やかされたりすることさえありました。
しかし、私たちの仕事の基本である「市民のため」というキーワードを念仏のように唱え、市民のために何ができるか模索している中で、ISEPスタッフと事業を進める機会を得ました。彼らは、セミナーなどで参加者に自然エネルギーの可能性を説き、懇談会の場が地域における合意形成の場になることを説いていきました。それらの場づくりが市民発電所という形に発展していったことは、実践された方々のご尽力の賜物ですが、ISEPスタッフが、率先して地域に入り、協働で進めようとしていることを体感し、啓発により最も「良い影響」を受けたのは新エネルギー推進課スタッフであることを1年超経過し、ようやく私自身が気づき始めています。
地域に根ざした事業展開は、まだまだこれからですが、市民や事業者、NPO、行政が協働で進めていくことの可能性もまだまだ秘めていると思っています。”
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関連リンク
- 宝塚市ホームページ http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/
- 宝塚市新エネルギー推進課facebook https://www.facebook.com/takarazuka.city.renewable.energy
- NPO法人新エネルギーをすすめる宝塚の会 http://rept.or.jp/
- 非営利型株式会社宝塚すみれ発電 http://takarazuka-sumire.com
(取材・記事:高橋真樹)