2014年3月15日に、エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議が主催する見学会が神奈川県小田原市で開催されました。3.11の震災直後にいち早く地域主体の自然エネルギーに取り組みはじめたほうとくエネルギー*と、省エネの取り組みを行ってきた鈴廣かまぼこのこれまでの経験を学ぶプログラムは、地域ではじまった活動が次々と進展していることを実感できるものとなりました。(取材・記事:高橋真樹)

小田原市立富水小学校に設置された太陽光発電
小田原市立富水小学校に設置された太陽光発電(写真:高橋真樹)

小学校での太陽光発事業

はじめに訪れたのは、ほうとくエネルギーが小田原市との屋根貸し事業で太陽光発電設備を設置した小田原市立富水小学校です。屋上に設置された設備は、出力50.96キロワット(一般家庭14世帯分の電力)。通常時は、発電した電気はすべて売電されていますが、停電時には学校が使えるようになります。また、同市の下曽我小学校にもほぼ同じ規模、同じ条件の太陽光設備が設置されています。2014年1月には、両校でコンセントをつなげて小田原提灯がともるというユニークな完成セレモニーも実施されました。同校の小学生を対象にした設備の見学や、環境学習も実施しています。

もともと、ほうとくエネルギーが学校の屋根に発電設備を載せるモチベーションには、「小田原が地震の多い地域なので、避難所になった際にバックアップ電源として導入したい」という思いがあり、今回の設置はその第一歩となりました。ほうとくエネルギーでは、今後も市内のすべての小中学校に太陽光発電の設置をめざしています。

地域事業ならではのエピソードもあります。ほうとくエネルギーのメンバーがはじめて学校に挨拶に行った際、関係者の情報共有が十分でなかったこともあり、学校側は「事業者に屋根を貸してあげる」という対応だったそうです。しかしこのプロジェクトは、事業者だけの利益を追求しているのではなく、停電時の災害拠点としても地域にとって意義のある自然エネルギー設備を学校に設置するという趣旨で取り組まれているものです。そうした説明を繰り返し、徐々に理解をしてもらえるようになってからは、学校とほうとくエネルギーが一緒に取り組む姿勢へと変わっていきました。

地域全体で取り組むといっても、大事な部分を共有していくことはなかなか難しいものです。しかし、こうした地道な対話を通して、地域に理解を広げていく行動こそ、地域が主導でエネルギーをつくることの意味なのだと感じさせられます。

森の中のメガソーラー

小田原メガソーラー予定地(写真:高橋真樹)
小田原メガソーラー予定地(写真:高橋真樹)
小田原メガソーラー事業の意義を話す辻村さん(写真:高橋真樹)
小田原メガソーラー事業の意義を話す辻村百樹さん(写真:高橋真樹)

次に訪れたのは、メガーソーラーの建設予定地である小田原市久野の山林です。ぼくはここを訪れるのは2回目ですが、はじめて来たときに小田原駅から車で10分程度の場所に、こんな里山があることに驚きました。設備は、小田原の町並みと、海が広がる様子を眺めることができる山の頂きに設置される予定です。ここでは、土地所有者である辻村百樹さんが今の状況を説明してくれました。

約1メガ(984キロワット)の太陽光発電設備が設置されるのは、神奈川県の公共事業で出た建設残土の置き場になっていた広さ約1.8ヘクタールの土地です。山の木は間伐など適切な整備がされる必要がありますが、間伐して、山から降ろしてくる費用が出せないため、とても整備ができませんでした。辻村さんは、このメガソーラー事業の賃料を利用して、森を再生しようと考えています。現在は2014年春の発電開始に向けて準備している段階で、2月末には着工の鍬入れ式を行っています。順調に行けば今年の秋には発電開始になる予定です。ほうとくエネルギーでは、このメガソーラーの費用として使う市民出資を募集しています。ほうとくエネルギーの市民出資については、自然エネルギー市民ファンドのサイトをご覧ください。

ほうとくエネルギー副社長の志澤昌彦さんからは、市民出資の現状(2014年3月15日現在)の報告がありました。ほうとくエネルギーでは、自然エネルギー市民ファンドを通じて1月から市民出資の募集を開始し、開始早々地元を中心に大きな反響がありました。現段階で全国から4,500万円以上の出資が集まっています。開始2ヶ月間で目標金額1億円の45%が埋まったというのが驚きです。内訳は、地元の小田原市に住む人が3割、小田原も含めた神奈川県にすると6割、他の県からが4割ということで、半数以上を地域の人が出資していることになります。(追記:2014年4月11日時点では、出資者数128名、合計7,430万円が集まっています。資料請求はこちらから。)

2011年3月11日の震災の日、辻村さんはちょうどこのメガソーラー建設予定地に立ち、不安な気持ちで海を眺めていたといいます。幸い小田原には津波は来ませんでしたが、その後の停電などで、現代のエネルギーシステムがいかに脆弱かを実感しました。そこで、小田原の人たちが安心できるような場所を創りたいと感じたそうです。

その後、自然エネルギーの電力を有利な価格で買い取ってもらえるFIT(固定価格買取制度)が施行されました。辻村さんのところにも、東京の大企業から土地をメガソーラー用地として使いたいというリクエストがありましたが、断りました。当時、ほうとくエネルギーは誕生したばかりの小さな会社でしたが、「地域の力でエネルギーをつくる」ことをめざしていたことが、辻村さんの思いと合致したのです。ここからも、単に太陽光発電をするというだけではない思いが込められているのです。

幻の小水力発電所

小水力発電所跡地(写真:高橋真樹)
大正時代につくられた小水力発電所跡地(写真:高橋真樹)

続いて、同じく辻村さんが所有する敷地にある、小水力発電跡地を訪れました。かつて100年前に辻村さんの祖父が大金をはたいてつくった堅牢な石組みの小水力発電の話は、以前のレポートで紹介させていただいています。その跡地の整備作業を昨年の夏にぼくが取材した際には、根が深く、なかなか除去できなかった切り株でしたが、今回はすっかりきれいになっていました。今後は、もう少し周囲を整備して、史跡として保存するか、再び水を入れて小水力発電所として使用するか検討していくとのことでした。課題としては、川の流れや水量が当時とは変わってしまっているので、このまま発電所を置いても難しいという状況です。ぼくとして、再びここが小水力発電所として稼働するのを見てみたいのですが、費用もかかるので、今後の動きに注目していきたいと思います。

荻窪用水(写真:高橋真樹)
江戸時代の水田事業として開かれた荻窪用水(写真:高橋真樹)

ほうとくエネルギーでは、途中で訪問した荻窪用水でも小水力発電ができないか検討しています。荻窪用水は、江戸時代の水田事業として開かれたもので、箱根塔ノ沢付近から荻窪(小田原市)につながる全長10.3kmの用水路です。1880年には、荻窪用水を利用した水車小屋が19軒ありました。このように、過去に使っていた水力資源を、いろいろなところで発見することができます。

鈴廣の省エネの取り組み

鈴廣副社長/エネ経会議世話役代表の鈴木悌介さん(写真:高橋真樹)

鈴廣かまぼこ副社長・エネ経会議代表理事の鈴木悌介さん(写真:高橋真樹)最後に訪れたのは、箱根登山鉄道の風祭駅前にある鈴廣かまぼこ本社です。鈴廣では、震災直後から生産ラインの調整や、エアコンを時間をずらして止めるなどの工夫をして、20%の節電を実現しました。その後、創エネ、省エネの設備を導入してさらなる効率的なエネルギー運用をめざしています。創エネとしては太陽光発電の導入で、2013年に工場や店舗など3カ所の屋根に合計出力約110キロワットの設備を載せました。

鈴廣かまぼこに導入された太陽熱温水器(写真:高橋真樹)

また、2013年12月からは工場の給湯をまかなう太陽熱給湯システム(約2,200リットル)を導入しています。ここでは、通常の太陽熱温水器と異なる工夫がされていました。工場では大量の温水が使われるため、家庭で使われるような温水器のように、昼間に太陽熱で暖めたお湯を使うだけでは、温水が足りなくなってしまう恐れがあるからです。そこで、水を直接温めるのではなく、太陽熱でクーラント液を温め、温まったクーラント液で井戸水を温めるという熱交換システムにしてあります。これにより、井戸水をそのまま給湯するよりも、暖かい時間が長持ちするシステムになっています。夏場のガス代節約には相当期待ができるとのことでした。

地中熱利用システム(写真:高橋真樹)
地中熱利用システム(写真:高橋真樹)

さらに省エネ設備として、レストランに地中熱利用換気システムを導入しました。レストランは大空間なので、空調にエネルギーを多く使っているので、そこを工夫しようという試みです。地下の空気は安定していて、外気温より冬は暖かく、夏は冷たくなります。その性質を利用し、ここでは地下5mにパイプを通して空気を送り込んでいます。それにより、単に外気をエアコンに送るよりも、エネルギー効率が良くなります。一度地中に落とすので、ホコリや花粉が少なく、お客さんや従業員からも好評だそうです。また、レストランの天井には、水を流して気化させるパイプを設置中です。この設備により、夏の温度上昇を押さえようという試みです。太陽熱、地中熱ともに、まだ本領を発揮する夏を経験していないので、今年の夏にどれくらいの省エネ効果が現れるかが期待されています。

感想として

見学会を通して、ほうとくエネルギーは市民出資もはじまり、メガソーラーなどの事業準備も予定通り進んでいることが実感できました。鈴廣かまぼこの省エネ設備は、1年を通してどれくらいの成果を上げるかこれからに期待したいところです。こうした創エネ省エネの取り組みがエネ経会議のネットワークを通じて他の企業にも広がっていけばと感じました。特に太陽熱温水器などはコストパフォーマンスも良いだけに、温水を多く使う施設ではぜひ導入してもらいたいと思っています。

なお、ほうとくエネルギーでは、将来的に太陽光、小水力、バイオマス、温泉熱など、小田原箱根地区にあるポテンシャルを活かし、自然エネルギーを新しい名物としたツアーを実施したいという構想も持っています。近く実現しそうなプロジェクトに加えて、将来的に夢のある構想を掲げることが、ワクワクした地域をつくる秘訣かと思います。

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

全国ご当地電力レポート