東京都調布市では、地域の人々が中心となって立ち上げた事業会社「調布まちなか発電」が、2013年11月に市と協定をむすび、公共施設の屋根を利用した太陽光発電事業を着々とすすめています。

山野市営住宅B棟に設置されたソーラーパネル
山野市営住宅B棟に設置されたソーラーパネル(写真:調布まちなか発電)

概要

事業主体:調布まちなか発電非営利型株式会社
協議会:一般社団法人調布未来のエネルギー協議会
本拠地:東京都調布市
ステータス:事業開始済み

活動のきっかけと概要

東京の西に位置する調布市は、人口約22万人のベッドタウンとして知られる都市です。多摩電力のある多摩市と都心部との間にあり、条件的にも、多摩市と似ています。都市部で自然エネルギー事業をすすめるとしたら、土地が限られていたり、太陽光発電しかできないという制約があったりというデメリットがあります。そのような中で、調布ではどのような事業を実現しようとしているのでしょうか?

調布の活動は、2012年4月に中心メンバーの小峯充史さんが、調布青年会議所や一緒にまちづくり活動をおこなってきた仲間たちに声をかけ、持続可能な地域をつくるためのグループをスタートさせたことがきっかけとなっています。小峯さんは、かつてサラリーマンをしていましたが、調布を拠点に起業しようと学んでいく過程で、まちづくりや青年会議所と関わるようになります。そこで環境教育などに携わるうちに、化石燃料の問題や、環境への意識が広がっていったといいます。

小峯さんは本格的に事業に取り組むため、2012年6月に会社を退職。現在の協議会活動の事務局も担う株式会社エコロミを立ち上げました。エコロミを受け皿に環境省に事業の申請を行い、8月に平成24年度環境省「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に採択されています。それを受けて、実際に地域に広げていくためのプラットフォームとして一般社団法人調布未来のエネルギー協議会が発足しました。協議会には、事業者、NPO、自治体や地元の金融機関などが幅広く参加し、毎月の会合で、地域のための事業をどう進めていくかについて協議を重ねました。

協議会では地域に利益を還元していく方針が決まり、それを実現するため、2013年5月に「調布まちなか発電非営利型株式会社」が設立されました。調布まちなか発電は、協議会の方針のもとで行動する企業という位置づけになっています。2013年11月には調布市と協定を結び、調布市内の公共施設に、合わせて約1メガワット弱(一般家庭約300世帯分)の太陽光発電設備の設置を開始。2014年4月にはすべての設備が稼働する予定になっています。

協議会によるワークショップ
協議会によるワークショップの様子(写真:高橋真樹)

特徴は、収益を地域還元するこだわり

調布まちなか発電は「非営利型株式会社」という法人形態で設立されました。非営利型株式会社とは、事業の収益を経営者や株主ではなく、地域活動や公的なものに還元していくことを定款で定めた株式会社です。この法人形態は、協議会に集まった人々の「発電事業をするだけでなく、その先の地域づくりにつなげていこう」という思いを実現させるひとつの方法として採用されました。協議会の中心メンバーは、地元の青年会議所に参加していたまちづくりを進める青年経済人たち。彼らが、ビジネスの感覚をまちづくりに活かしているのです。

収益の地域への還元方法は、大きく4つあります。1つ目は、設備を設置した公共施設で「電力の見える化」を実現することです。まずは施設で使用されている電力を測定し、データを誰でも見えるようモニターに表示します。でもそれだけでは、単に画面を見て使用量がわかるということにすぎません。そこで終わりではなく、得られたデータを基に、具体的なエネルギーの削減案を検討し、売電収益やESCO事業の手法を使って設備の交換などを進めていくとしています。「電力の見える化」は、ただ見えるようにすれば良いのではなく、このように具体的な行動につなげていくのが大切です。最近は、電力モニターを設置する家庭が増えていますが、実際にはしばらくすると飽きて見なくなってしまうという例も多いようです。その点、調布の実践的な取り組みに期待したいと思います。

2つ目としては、売電収益が大きくなったら、市のエネルギー事情の大幅な改善に向けたスマートグリッドの調査、研究費を寄付するというものです。家庭や公共施設など、ひとつひとつの建物単独でできることは限られています。ある程度の規模でエネルギー効率を改善しようとすれば、一軒ではなく地域全体で考える必要があります。これは、そのための投資をしていこうという試みです。

3つ目は「緑の保全基金」への寄付です。調布市は、東京の中では緑豊かな環境が残されている方ですが、そうした場所がどんどん減っていっています。そのため、地域の財産である緑地を守ることをめざします。

4つ目はエネルギーに関する相談窓口の設置です。太陽光に限らず、熱利用、省エネ、蓄電など、エネルギーに関して市民の方々へ第三者的にアドバイスできる仕組みを作るとしています。

小峯さんは、事業計画の中で地域への還元方法が最も気を使ったと語ります。さまざまな議論を積み重ね、本当にこの地域に必要なものは何かと考え、行きついたのがこの4つのプロジェクトでした。悩ましいのは、都市部なのでどんどん発電設備を増やしていくわけにはいかないという部分です。そこで1つ目の取り組みように、売電収益などで施設を省エネ化していくという新しい方法を考え出したのです。これらの取り組みは、住宅地ならどこでも実施できるため、「調布モデル」が他の地域に広がる可能性も高いでしょう。

富士見市営住宅での風除板設置作業(写真:調布まちなか発電)
富士見市営住宅での風除板設置作業(写真:調布まちなか発電)

設置設備と今後の展望

2014年2月時点で、調布まちなか発電は公共施設での分散型メガソーラー(合計33カ所に、926キロワットの出力)の設置をすすめています。事業資金については全額を地域の金融機関からの融資で調達しています。発電した電力は東京電力に売電されますが、停電時には施設に電源供給できるようになっています。また、協議会では2014年春にまちなか発電とは別の事業会社を立ち上げ、民間施設での太陽光発電事業を具体化させていく計画を立てています。

現状は、最初の事業を安定化させることに重点を置き、その実績をもとに今後も取り組みを拡大させていく方針です。また、一般市民にはまだまだ認知されていないので、設備設置とともに、啓発活動も進めていく予定です。将来は、都市部のエネルギー事業者として、大量に出る食品残さなどを活用したバイオマス事業なども検討する予定です。

キーパーソンからのメッセージ

エコロミのオフィスにてIMG_1152

小峯充史さん(調布未来のエネルギー協議会会長、写真中央)

“この仕事をはじめて、サラリーマン時代には経験なかった多彩な人たちと数多く出会い、いつも刺激をもらっています。日頃は多摩地域のごく普通のマンションの一室で仕事をしているのですが、こんなところから時代の最先端の仕事をしているように思うときがあります。

普通のサラリーマンだった私が行動を起こした理由は、「後の世に、きれいな姿で地域を残したい」ということでした。また、未来に変な毒物を残したくないという思いもありました。ただ、環境とか自然エネルギーを自分が生業にするなんて、2年前まで考えもしませんでした。そもそもこのような仕事で食べていけるとは思っていなかったので…。

でもまちづくりを通じて知り合った仲間やネットワークが、私をサポートしてくれました。今はビジネスで得た経験と手法を、まちづくりのために活かそうとみんなで取り組んでいるところです。

調布でできる取り組みはすべて、全国の都市部でもできることです。とはいえ、私たちが他の地域に出かけていって同じ提案をしてもうまくいきません。やはりそれぞれの地域で、本気で取り組む人が中心にならないといけない。多くの方が、興味はあるけれど自然エネルギーを仕事にしても暮らしていけるかどうか心配されています。私もかつて同じ気持ちでした。でも十分食べていけるので、ぜひ、みなさんにチャレンジしてほしいと思っています。“

ステークホルダー

  • 一般社団法人調布未来のエネルギー協議会:調布の再生可能エネルギー利用について協議し、事業の推進と地域還元をめざすプラットフォーム
  • 調布まちなか発電非営利型株式会社:官民連携の屋根貸し事業を実施する会社
  • 株式会社エコロミ:環境省事業の事務局
  • 調布市:調布まちなか発電と協定を結び、公共施設の屋根貸しを実施
  • 多摩信用金庫:事業資金の融資

お問い合わせ

一般社団法人調布未来(あす)のエネルギー協議会

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

全国ご当地電力レポート