長崎県雲仙の温泉街、小浜温泉では、源泉が105度になる高温のお湯が1日に1万5000トンも湧き出しています。しかし、このうち70%の温泉水は利用されずに海に流されてきました。地元では、この未利用の温泉水を有効に使えないかということが課題となっていました。

未利用温泉水を使ったバイナリー温泉発電所外観(写真:小浜温泉エネルギー)
未利用温泉水を使ったバイナリー温泉発電所外観(写真:小浜温泉エネルギー)

概要

事業社名:小浜温泉エネルギー
本拠地:長崎県雲仙市小浜町
ステータス:事業開始済み

設立のきっかけと事業概要

未利用温泉水の使い道として有力視されているのが、100度前後の低い熱でも発電が可能な、バイナリー発電システムを使った発電事業です。バイナリー発電は、フロンなどの沸点の低い媒体を蒸発させてタービンを回すシステムなので、通常の地熱発電のように深い掘削が必要となりません。

地域の温泉水と熱の有効利用を考える話し合いは、長崎大学環境科学部の提案が元となって2007年から進められてきました。そして具体的な発電プロジェクトを進める第一歩として、2011年3月8日に地元の温泉組合や観光関係者、雲仙市、大学・企業の専門家等をメンバーとする「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」が発足します。協議会の活動の目的は、「未利用温泉熱活用に関する調査研究を行うとともに、未利用温泉熱活用事業の円滑な普及発展を図り、地球温暖化対策への寄与と地域経済・観光の活性化をもって持続可能な社会の構築に寄与する」としました。

協議会が母体となり、同年5月に「一般社団法人・小浜温泉エネルギー」が設立。主体は地元の温泉事業者が担い、それを自治体や長崎大学などがバックアップするという形になりました。

この事業は、環境省の地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務、低炭素地域づくり集中支援事業の採択を受け、2013年4月に導入した設備で温泉への影響や事業化の可能性などを検証することになっています。小浜温泉のこの取り組みは、全国の温泉街で発電事業をすすめるモデルとなる期待がかけられています。

特徴

湯気が上がる小浜温泉の街角(写真:高橋真樹)
湯気が立ち上がる小浜温泉の街角(写真:高橋真樹)

この小浜温泉の取り組みで最もユニークな点は、ここで2004年に国と自治体が準備していた地熱発電開発を、地域の反対運動が中止にさせたという経緯があったことです。しかし現在は、その反対運動をしていた温泉組合の人たちが中心となって発電事業を進めています。このような例は、全国でも聞いたことがありません。

かつて中止になった計画は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と小浜町が主導して進めていた大規模な掘削をともなう地熱開発プロジェクトでした。新たな掘削が、温泉に影響をあたえることを懸念したというだけでなく、地元に相談なく進められる開発プロセスに対する不信感もあったようです。しかし一方で、地元の人は溢れ出る温泉の有効利用をどうにかしたいと考えていたのも事実でした。そこで、地域の人にとってメリットになる方法で、地域が主導で進める発電プロジェクトが設立されました。

この小浜温泉の取り組みの意味は、従来型の、国と自治体が決めて巨額の費用を投じて開発を進め、地元は関係ないというものとは異なる、オルタナティブな事業のあり方を提示しているように思います。

また、温泉発電を実施している地域は全国に何箇所かありますが、いずれも実証実験段階です。この小浜温泉の取り組みが事業として軌道に乗れば、全国で初めて事業化をしたモデル的なプロジェクトになることになります。

設置設備について(2013年9月現在)

合計180kWのバイナリー温泉発電設備(写真:小浜温泉エネルギー)
合計180kWのバイナリー温泉発電設備(写真:小浜温泉エネルギー)
旅館でのスケール清掃(写真:小浜温泉エネルギー)
旅館でのスケール清掃(写真:小浜温泉エネルギー)

小浜温泉における未利用温泉水を使ったバイナリー温泉発電設備(神戸製鋼所製)は、出力60kwの設備が3台で、合計180kw。 2013年4月から実証試験がはじまりました。この電気は、町の健康施設「リフレッシュセンターおばま」に送られています。1年間の試験期間中に実用化の課題を探り、使用後は地元で設備を買い取り、事業化に取り組む予定です。また2014年度から、新たな設備を導入することも検討しています。

実用化に向けた課題は、規模が小さいことから採算面をどうやりくりするかということや、町中に設置する場合に発電所の騒音をどうするかといったことの他に、「湯の花」と呼ばれるスケール(温泉成分が白く固まる現象)が付着するといった問題があります。現在は、それぞれの対応を検討しながら、事業化に向けて模索をしているところです。

事業を開始してからは、九州をはじめ、全国から注目を浴び、実験を開始してから2013年9月まで、約1100人の見学者が小浜温泉を訪れています。

※ 発電プロジェクトの視察・見学は、小浜温泉観光協会が実施している小浜温泉ジオツアーへ問い合わせください。(小浜温泉観光協会:Tel 0957-74-2672)

ステークホルダー

  • 関連組織:小浜温泉エネルギー活用推進協議会(ステークホルダーの連絡・調整、事業会社への出資)
  • 一般社団法人小浜温泉エネルギー(協議会の実行組織、環境省への事業の共同提案、事業計画の策定など)
  • 小浜町観光協会(小浜温泉ジオツアーの実施、環境教育プログラムの検討など)
  • 設備設置事業者/株式会社エディット(温泉発電実証事業の実施、設備の設計・調達・施工など)
  • 自治体:長崎県、雲仙市(協議会を通じた事業全般への積極的なサポート、設置場所・源泉の貸与など)
  • 大学:長崎大学(未利用温泉水活用のための提言、調査研究など)

キーパーソンからのメッセージ

佐々木裕さん(小浜温泉エネルギー事務局長)

佐々木裕さん(小浜温泉エネルギー事務局長)

”小浜温泉では、温泉発電をきっかけに「エコな温泉地」として地域おこしをしようという機運が高まっています。全国の温泉地間での競争が激しくなっている中、他の温泉地との差別化を図るために、地域特有の豊富な温泉熱の活用に取り組んでいます。

かつて小浜温泉では発電計画への反対運動が起きましたが、決して排他的な地域というわけではありません。私も含め事務局のスタッフ4名は県内外の他の地域出身の「よそ者」ですが、そのような「外からの視点」を取り入れていただき、地元の方々と一緒に事業に取り組んでいます。

小浜温泉に来て驚いたのは、海辺の温泉街のあちこちから立ち上る湯けむりと、未利用のまま海に流されている温泉がたくさん見られることです。これを活用しない手はないのですが、高温の温泉にはいろいろと厄介なことも多く、試行錯誤しながら課題の解決を図っています。

現在小浜温泉では、温泉バイナリー発電所をはじめ、105mの日本一長い足湯や温泉蒸し釜体験など、豊富な温泉資源を満喫できる「小浜温泉ジオツアー」を実施しています。今後は発電だけでなく、温泉熱を利用したレジャー施設や温室ハウス栽培など、新たな温泉観光資源の創出へ向け活動しておりますので、ぜひとも小浜温泉にお越しいただき、温泉資源の恵みを体感していただければ幸いです。”

お問い合わせ

〒854-0514
長崎県雲仙市小浜町北本町862-2階
TEL&FAX:0957−74−3345(雲仙Eキャンレッジ交流センター内)
URL:http://obamaonsen-pj.jp/association

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

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