北海道グリーンファンドは、1999年に生活クラブ生協・北海道のメンバーが中心になってできたNPOです。一般に知られているように、生協は安全な食を生産者とともに開発して共同購入を行うグループです。食だけでなくエネルギーも、原発に依存せず選んで使いたいという声を受けて誕生したのが、北海道グリーンファンドです。当時から変わらないコンセプトは「市民が参加してクリーンな電力を選べる体制をつくろう」というものです。(取材・記事:高橋真樹)

市民風車第1号「はまかぜ」ちゃん
市民風車第1号「はまかぜ」ちゃん(写真: 北海道グリーンファンド)

概要

事業社名:NPO法人北海道グリーンファンド
本拠地:北海道札幌市
ステータス:実績あり

設立の経緯と事業概要

仕組みづくりなどの企画と立ち上げには、NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)が全面的に協力しています。とくに市民が参加する自然エネルギーの普及を全国的に推し進めるため2003年2月に設立された、株式会社自然エネルギー市民ファンドは、ISEPが今も共同で運営しています。

北海道グリーンファンドは、1999年には日本初の「グリーン電気料金制度」を開始。また市民参加型の風車建設を呼びかけて、全国の市民から小口の資金を集める「市民出資」を開発します。その資金を含めた形で、2001年に北海道浜頓別町(はまとんべつちょう)に日本初となる市民風車「はまかぜちゃん」(出力990kW)を建設しました。その後も、青森や秋田など各地の市民風車立ち上げを支援するなど、市民参加型の風力発電事業に取り組んでいます。

特徴

日本の風力のポテンシャルは、北海道や東北地方を中心に非常に高いとされています。しかし、調査や手続きに3年から5年近くの時間がかかり、費用も1基2億円ほどする風車(1号機建設当時)は、市民が建設するにはとてもハードルの高い設備でした。さらに金融に関する法律や、技術的な専門知識も必要になってきます。

しかし北海道グリーンファンドは、「グリーン電力料金制度」や「市民出資」などといった独自の仕組みを開発して、当時は市民には不可能と考えられていた市民風車の建設を2001年に実施。以降も着実に数を増やしています。

当初は金融機関からの融資が難しかったこともあり、「一般の人から出資を募ることはできないか」というアイディアを元に、市民からどのように資金を集めることができるのか検討をはじめました。事業パートナーとして協力した環境エネルギー政策研究所(ISEP)の方で、公認会計士、税理士、弁護士、金融機関、風力事業者が手弁当で参加する「市民風車研究会」というオープンソースの場を設けて何回も会合を重ね、基本的な枠組みの設計から事業のキャッシュフローの精査、そして実際の契約書の完成まで検討して、最終的に匿名組合という仕組みを利用した市民出資という新しいファイナンスモデルを作り上げました。

金融機関でもなく証券会社でもないNPOが、不特定多数の市民から資金を調達するためのこうした新しい資金調達の仕組みは、その後の市民風車の取り組みや太陽光発電事業(おひさま進歩エネルギー、備前グリーンエネルギー)など、各地の地域主導型の再生可能エネルギー事業に活かされることになりました。

現在は、日本における市民風力発電の草分けとして、これまでの経験で得た知識や技術で、それぞれの地域事業をサポートしています。

設置設備について(2013年8月現在)

北海道石狩市の設置された市民風車「かなみちゃん」
北海道石狩市の設置された市民風車「かなみちゃん」(写真: 北海道グリーンファンド)

現在、北海道グリーンファンドが関わった風力発電設備は16基。合計出力は25,750キロワットになります。

2001年9月に日本初の市民風車である「はまかぜちゃん」を建てて以降、市民風車は着実に増加しています。当初、金融機関による融資は検討すら難しい状況がありましたが、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が施行された2012年後半以降は、銀行からの融資も実績が上がってきています。

東日本大震災から1年がたった2012年3月には、新たに2基の市民風車が誕生しています。これらの風車は、それぞれワタミ株式会社、生活クラブ生協(東京・神奈川・埼玉・千葉)が協力して建設されたものです。この2基が他の市民風車と異なる点としては、つくられた電力を東北電力に売電するのではなく、特定規模電気事業者(PPS)を通じて、両社の各施設に供給する仕組みになっていることにあります。2013年8月現在はいったんFITを利用して売電していますが、電力自由化の流れの中で、これらの取り組みは、画期的な試みとして注目されています。

今後の展望

北海道グリーンファンドは、今後も北海道や東北地域を中心にした風力発電の事業化を進めていく予定にしています。またこれまでは、採算を得られるものが風力発電事業しかありませんでしたが、FITが導入されたことで、太陽光発電や小水力発電などの可能性が芽吹き始めています。この仕組を利用して、北海道グリーンファンドが手がける事業に加えて、各地の取り組みを積極的に支援して導入拡大を計る予定です。

また、地域での再エネ事業の拡大にとって、地域金融機関の役割を重要視している北海道グリーンファンドは、市民出資を組み合せながら、金融機関と一緒に勉強、経験を積み重ね、新しいファンドの仕組みなどを作ろうとしています。さらに、事業からの収益を地域の活性化や自立に向けた取り組みに役立てる企画も検討中です。

エネルギーの「かしこい使い方(省エネ)」や、「再エネの導入拡大(市民風車)」を進めてきた北海道グリーンファンドですが、今後はそれらに加えて、「電気を選び、配る(電力小売り)」という分野にもチャレンジしていくとのこと。「電気を選んで暮らしたい」という思いからスタートしたこの事業が、また新しいステップに挑戦をはじめています。

ステークホルダー

  • 関連組織:株式会社市民風力発電(2001年に市民風車はまかぜちゃんの事業主体として立ち上げる。以来、各市民風車の開発、運営・保守管理を担う専門会社として運営。)
  • 関連組織:株式会社自然エネルギー市民ファンド(2003年に市民風車の建設資金を調達するのにともない立ち上げた、市民出資の組成や募集を行なうファンド専門会社。)
  • 関連組織:株式会社ウェンティ・ジャパン(秋田県で地域が主体となって取り組む風力発電事業、また風力による地場産業の育成をはかる推進会社として、地域金融機関、地元企業と共同で設立、運営。)
  • 関連組織:一般社団法人北海道再生可能エネルギー振興機構(膨大な自然エネルギー資源の宝庫である北海道で、地域主体のエネルギー事業の拡大と産業育成、雇用促進などを進めるプラットフォーム組織として、約70市町村の道内自治体と地元企業を中心に運営する会員組織。)
  • 自治体:石狩市(北海道電力による風力発電プロジェクトにおいて自治体枠を活用し、共同で市民風車 建設に取り組む。)
  • 地域金融機関:秋田の北都銀行を始め、それぞれの地域の金融機関と融資を通した連携を進めている。
  • その他:NPO、生協、一般企業など(地域のNPOとの共同事業や事業化支援、生活クラブ生協を始めとした各生協組織やワタミ株式会社を始めとした市民顧客を抱える一般企業との共同事業も進めている。)

プロジェクトのキーパーソンから

HGF_鈴木亨 鈴木亨さん(北海道グリーンファンド理事長)

”食とエネルギーは生きるのに欠かせないライフラインです。でも食は選べてもエネルギーは選べない。私たちはそこに風穴を開けたいと思ってやってきました。私も含めて、当初は風車建設に関わったメンバーのほとんどが普通のサラリーマンでした。でも専門家の協力を経て風車を建てる事ができました。その経験を通じて、やる前からあきらめてはいけないということを学びました。私たちは最初から風車をつくることを目標にしてきたわけではありません。発電設備はあくまでツールにすぎない。大切なのは、地域の自立と活性化です。そのような意味でも、自らも再エネ事業をつくりつつ、これからはファンドのあり方も含めて、全国で起きている地域の取り組みを支援する立場になっていきたいと考えています。”

お問い合わせ

〒060-0061 札幌市中央区南1条西6丁目15-1 札幌あおばビル10階
TEL: 011-280-1870
FAX: 011-280-1871
URL: http://www.h-greenfund.jp

関連リンク

 (取材・記事:高橋真樹)

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