「金融のプロ」が語る「意志あるお金の廻し方」- 伊藤宏一さん インタビュー

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千葉商科大学の伊藤宏一さん(写真:高橋真樹)

千葉商科大学の伊藤宏一さん(写真:高橋真樹)

「ご当地エネルギー」の取り組みでは「市民出資」で資金を集める方法が盛んになっています。市民出資の手法を使って初めて建てられた市民風車「はまかぜちゃん」から10年以上が立ち、市民出資をめぐる環境にも大きな変化が起きています。千葉商科大学人間社会学部で金融を専門に教えている伊藤宏一教授に新しい展開を迎えた市民出資をめぐる話をうかがいました。(インタビュー:高橋真樹)

■「地域でお金を回す仕組み」は日本の伝統

私は、地域の自然エネルギー事業を金融の専門家としてお手伝いしています。市民出資をめぐる動きは、日本語で「社会金融」あるいは「金融の再ローカル化」と呼ばれています。「ファイナンス」と言うと、アメリカ仕込みの投機的で暴力的な金融資本主義の印象がある方も多いかと思います。でも実は日本には、明治になるずっと前、それこそ鎌倉時代くらいから、民衆の中でお金を回す地域金融システムがさまざまな形でできあがっていました。
例えば西日本では頼母子講(たのもしこう)、東日本では無尽、沖縄では模合(もあい)という相互扶助金融システムが、連綿と続いていたのです。しかもそのあり方は一様ではなく、それぞれの地域に合う形で運用されていました。

例えばテレビ番組で、この地方の人気の食べ物を紹介するといって、ぜんぜん思いもつかないものが出てきたりすることがありますよね。あれは地方の再発見なのです。もともとそこにあったのだけど、東京を中心とした均質のマーケットが良いとされる中で、地方のモノが埋もれてきたということがあると思います。

江戸時代には、300あった藩に1,500の特産物があったと言われています。単純計算しても、1つの藩で5つか6つの特産物があったのです。日本の地域はとても個性的で気候風土や文化なども異なっています。つまり当時の日本は、ひとつ山を越せば違う個性があるという、多様性に満ちた社会だったと言えるでしょう。そして人々の暮らしに根ざした相互扶助金融システムも一様ではなく、各地で多様な特性をもって営まれていました。

「環境とお金」についても同様です。日本では「草木国土悉皆成仏」「八百万の神々」と言うように、自然そのものが神様仏様とされてきた伝統があります。例えば明治時代には「山の神講」というものがありました。一般の人が、山の保全のために春と秋の二回集まって、お金を出しあうというものです。私は今の自然エネルギーへの市民出資は、その現代版ではないかと考えているのです。

講や無尽は、今の社会でいう保険や積立てなど、いろいろな役割を果たしていました。例えば「馬頼母子講」というのがありました。馬というのは大変な財産です。でも飼っていた馬が死んでしまったら、新しく買わなくてはいけません。そんなときに使えるお金を、みんなで出しあう性質のものです。一種のリクスマネジメントですね。
また幕末の山口では、農民が「お救い頼母子講」という貧しい人たちの相互扶助をやっていました。それを長州藩がもっと発展させようと、一部に藩の財政を入れて、貧しい人たちの中でお金を回す「修補制度」というものに拡大しました。結局それで元気な農民が増えて、収穫が上がり、厳しい状況だった長州藩の財政再建にも結びつくのです。こうした「地域でお金を回す仕組み」は、それぞれの地域固有の文化をつくるベースにもなってきました。

■「ギラギラ投資」を「キラキラ投資」へ

それが変わってきたのは明治時代です。明治になって貯蓄制度ができ、全国の郵便局がお金を国に吸い上げるシステムができました。1900年に、当時の大蔵大臣松方正義が「貯蓄奨励論」の演説をして富国強兵のための貯蓄増強を説き、そのための仕組みも全国に作り上げました。ちなみに民俗学者の柳田国男は、それまでは地域でお金が廻っていたので、国が吸い上げるべきではないと当時から批判をしています。さらに戦後は、大手の銀行を通じて大企業に回る間接金融の仕組みが強固に機能しました。こうやって地域にお金が回る仕組みが、弱くされてきたのです。このようなシステムが、1900年から2000年まで、ほぼ1世紀続きました。

2000年からは日本でも無秩序に金融の規制緩和が進み、金融資本主義が広がりました。いわゆるグローバリゼーションです。それまでは少なくとも一国の中で留まっていたお金が、今度は世界中の大企業などに吸い上げられることになり、しかも極めてハイリスクの投機的な性格の金融が広がります。こうした流れの中で、リーマンショックが起きました。しかし他方で金融資本主義に対すオルタナティブ金融の動きも生まれてきました。地域金融を見直し、多少のリスクを取ってでも地域に良いことをしていこうという動きで、市民出資や、コミュニティ・バンク、そして有名なバングラディッシュのグラミンバンク*1 もそのひとつと言えるでしょう。

市民出資、つまり市民による地域の自然エネルギー事業に対する長期投資には、貯蓄や投資信託への投資とは異なる特徴があります。ひとつは、投資対象が透明ということです。銀行や郵便貯金では、自分のお金が何に使われているのかわかりませんが、市民出資は対象が「この風車だ、このソーラーパネルだ」とわかりやすいのです。もうひとつは、債券市場や株式市場に乗っているわけではないので、価格変動リスクを取らないことです。
もちろん、その事業が失敗するリスクはあります。そこで「投資」という位置づけになっているのですが、一般にイメージされている短期売買の投機的な株式投資とは違うということは重要です。そして、市民出資には、地域に再生可能エネルギー広げ、そのお裾分けを少しいただこうという目的があるため、「社会性」「公共性」という特徴をもっています。

日本で自然エネルギー事業を進めるために市民出資の仕組みをつくったのは、ご存知の通り環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也さんや、北海道グリーンファンドの鈴木亨さんたちです。北海道グリーンファンドの市民風車や、おひさま進歩エネルギーの太陽光事業は、市民出資の先駆的な例となりました。しかし、その意義が世の中に十分理解されていなかった面もあると思います。当初はほとんどの金融機関が見向きもしませんでした。しかし、東日本大震災で、本格的に自然エネルギーを展開していく流れができて、認識が深まってきていると思います。

日本では今まで、「投資」といえば投機的な「ギラギラ投資」しかありませんでした。それを、この仕組みを通じて「キラキラ投資」に変えていくことができるはずです。「リターンはお金だけじゃない」ということを広げていきたいですね。

■ 金融資本主義に立ち向かう価値をつくる

私が自然エネルギー事業に関わるようになったのは、2008年のリーマンショックの後です。私はファイナンシャルプランナーとして、個人や家庭のライフプランニングをアドバイスしてきました。少子超高齢化で年金も先細り、政府財政を支えるために銀行預金は超低金利といった中で、生活に必要な資金をどう確保していくのか、個人も家庭もそれを意識して中長期のライフプランを立てていかないといけません。

暮らしとお金に関わる仕事をしていく中でも、特に2000年代に入ってから危機感を感じるようになりました。先ほど言ったような金融資本主義の暴力が猛威をふるうようになってきたからです。私は、金融資本主義のオルタナティブになる対抗的な金融のあり方をつくり出す必要があるのではないかと感じました。そう思っていたときに、ISEPの飯田哲也さんと出会いました。そして、自然エネルギーを市民出資という手法で広げていることを知り、私もその発展に「ソーシャルファイナンス」という視点から取り組みたいと思ったのです。

私が関わりをはじめたのは、2009年からになります。以前から研究者としてだけでなく、実践することが大事だと考えていたので、躊躇はしませんでした。私は税理士の資格も持っているので、事業計画を含めて、弁護士の方とコラボしながら事業計画をつくるお手伝いをするようになりました。当時は「おひさまファンド」*2 がすでに実績をあげていて、これからもっと広げていこうとしている時期でした。
最も印象に残っているのは、2010年の秋から募集をはじめた富山県の「立山アルプス発電」という小水力発電事業のファンドです。全体の予算が約11億円でしたが、銀行からの融資を受けられず、8億円近くを市民出資で集めなければいけませんでした。当時の市民出資の額としては群を抜いていたので、きちんと計画はしたものの、本当に全額集まるのか未知数だったことは確かです。

募集開始直後はなかなか集まりませんでした。しかし、翌年に東日本大震災が起きて、自然エネルギーの重要性を感じた人たちの注目が一挙に集まりました。そして8億円が集まって、2012年の春には事業を開始することができました。その後、固定価格買取制度ができて、事業としては非常にうまくいったケースとなっています。
その立山アルプス発電以降、続々と各地で地域エネルギーのプロジェクトが立ち上がってきました。これはまさに3.11でやるべきことに気づいた人が非常に多かったということでもあると思います。

出資者からおひさまエネルギーファンドに寄せられた立山アルプス小水力発電所(写真:おひさまエネルギーファンド)

キクザキイチリンソウと立山アルプス小水力発電所(写真:立山アルプス小水力発電出資者)

■ 変わりはじめた市民出資をめぐる動き

震災によって変わったのは、市民出資に参加する一般市民の反応だけではありません。環境省は昨年から、グリーンファイナンス推進機構という組織をつくり、地域のエネルギープロジェクトに補助金ではなく、出資を積極的に行っていくことにしました。これは従来の補助金政策とはまったく違うものです。補助金は出して終わりなので、補助金に依存する事業者が増えるだけになってしまいます。今回の出資スキームは、国がリスクをとって事業を支援するが全体の出資額の2分の1未満で議決権のない株式とするので口は出さない、というものです。それを国が本腰を入れてやりはじめたというのは画期的なことです。

また、自治体でも新しい動きが起きています。先進的な環境政策を進める長野県では、2014年4月から「収益納付型補助金」というものをはじめました。こちらは収益が上がれば、収益分含めて返してもらう性質のものです。

いずれも出しっ放しのお金ではなく事業の自立を促す政策として期待できます。

そして地域金融機関にもようやく、こうした取り組みに積極的に融資していこうという動きが出てきました。以前は自然エネルギー事業への融資経験がほとんどなかったため、全体として及び腰だったのですが、ここ数年で評価できるようになってきたのです。そうした動きを後押しする手引書も環境省が作成しました。

私が関わりを始めた頃は、低利で融資してくれる金融機関は飯田市の飯田信用金庫や八十二銀行くらいでしたが、この数年で静岡の静清信用金庫、小田原のさがみ信用金庫、山口の萩山口信用金庫など、着実に増えてきています。数だけでなく、内容的にも10年前より良い条件で融資を受けられるようになってきています。とはいえ、まだまだこのような事業に融資する金融機関は多いとは言えません。今後はこうした動きを全国で着実に積み重ねていくことが大事になってきます。

■「お金が主人公」だとろくなことにならない

これまで市民風車事業を進めてきた自然エネルギー市民ファンドとおひさまファンドを合せて、集まった市民出資の総額はおよそ60億円ほどになります。「市民から小口で60億円集めた」と聞けば、大変な金額だと思うかもしれませんが、金融の世界から見ればまったく違った景色が見えてきます。

いま証券会社などで一般の方が買える投資信託には、一番大きいもので1兆円の純資産残高のあるファンドが3つくらいあります。さらに、数千億円規模のものなら数十もあります。私は、市民出資で自然エネルギーを広めていく事業が、数千億円の規模になるポテンシャルはあると思うのです。なぜならすでに述べたように、透明で目的がはっきりしていて、市場リスクも取りません。そして公共性があり、地域再生にもつながります。そういうものへの投資が一般的になれば、2,000億とか3,000億集まるのは不思議ではないのです。もちろんそこに到達するためには、社会的・倫理的に訴えると同時に、事業収益を上げ適正な範囲で収益分配できることや、広範にわかってもらう仕組みなど、いろいろな工夫をする必要があるでしょう。

ご当地エネルギー事業の取り組みは、分散ネットワーク型の社会や文化をつくっていくことの一環です。市民出資はそれを金融で支援するということです。証券市場では儲けのことしか考えないギラギラした金融が根強くある。そしてネットの世界では、正体のよくわからないビットコインがある。お金はその両方で廻っていますが、そのいずれでもない、新しいまともなオルタナティブ金融があるということを多くの人が知るようになれば、流れは変わっていくはずです。

お金というのはそれ自体に価値があるのではなくて、何かと交換するから価値が出るのです。一人一人が、自分のお金を自然や人間の価値、地域や文化の価値と交換しようと考えるようになれば、お金が主人公の金融資本主義的価値観の転換ができるのではないでしょうか。

今の日本の金融は、まだまだ金融機関の力が強く、市場は投機性が強い状況です。これに対抗して人間と地域と自然に奉仕する新しい金融文化を創る必要があります。それは実は、頼母子講や無尽のように、日本の人々が伝統的にやってきたことでもあります。大切なのは、顔と顔の見える関係(ヒューマンスケール)で、「意思あるお金の回し方」を新しいレベルで再生しましょうということです。

*1 グラミンバンク:バングラディッシュの貧しい農村を対象に、マイクロクレジットという低金利・無担保の融資を行う。2006年に創設者のムハマド・ユヌス氏とともにノーベル平和賞を受賞している。
*2 おひさまエネルギーファンド株式会社:飯田市のおひさま進歩エネルギーをファンド面から支える関連企業。2004年以来、毎年のように市民出資の仕組みをつくってお金を集めてきた。

(インタビュー:高橋真樹)

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