世界中が注目するオーストラリア初の市民風車! – ヘップバーン風力協同組合 タリン・レーンさん インタビュー

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オーストラリア初の市民風車「ヘップバーン風力協働組合」(写真:Hepburn Wind)

オーストラリア初の市民風車「ヘップバーン風力協働組合」とタリン・レーンさん(写真:Hepburn Wind)

化石燃料やウランの資源大国であることから、国としては自然エネルギーの導入に熱心ではないオーストラリアで初めての市民風車をつくった「ヘップバーン風力協同組合」。2基あわせて4,100kWの風車は近隣1,800世帯の電力をまかなっています。世界で最も風力発電の規制が厳しいビクトリア州でさまざまな逆境を乗り越えて地域の人々が実現させた市民風力発電事業は世界的にも評価され、2012年に世界風力エネルギー賞を受賞、市民風車は国連協同組合年の記念切手のデザインにもなりました。コミュニティパワー国際会議2014のために来日したヘップバーン風力協同組合のタリン・レーンさんにお話を伺いました。(インタビュー:高橋真樹)

■ 反対運動から、地域のための風車づくりへ

—— 市民風車はどのようにしてできたのでしょうか?
タリン:私たちの風車は、オーストラリアでコミュニティのために自然エネルギーを利用する初めての試みとなりました。風車が完成したのは2011年ですが、さまざまな困難があり、プロジェクトが立ち上がってから7年の歳月がかかりました。また、建設したあとも出力調整がスムーズにできなかったため、最初の6ヶ月間は、売り上げがありませんでした。そういった困難を克服することができたのは、目標をともにする大勢のボランティアが参加したからです。私も当初はボランティアの一人として関わりました。
風車の収益は地域のために使われていて、今ではコミュニティのシンボルのような存在になっています。このような動きが、オーストラリアの他の地域のモデルになってほしいと考えています。現在、風車には国内外から多くの見学者が訪れていて、2013年の3月には南相馬の子どもたちが環境学習を行う際の受け入れもしました。
ヘップバーン風力協同組合の活動は、同じ場所に計画されていた大企業による風車の設置に地域の人々が反対運動を起こしたところからはじまりました。公聴会に参加した人の中には、市民風車が広まっているデンマークから移住していた人がいて、単に計画をなくすのではなく、コミュニティが所有するスタイルで、自分たちが主体になって風車をつくろうと呼びかけたのです。
資金面では、プロジェクトが小さいため、銀行からの融資を受けることができませんでした。そこで最初に集まったメンバーで協同組合を設立しました。組合員は1年目は20人ほどでしたが、その後、地域の人を中心にして現在は2,000人にまで増えました。組合員は総額で980万オーストラリアドル(日本円で約9億円)の出資をしています。地域の人が参加しているというのは、この活動の強みになっています。
ヘップバーン風力協同組合には現在、私を含めて3名の専属スタッフがいて、全員が女性です。エネルギー関係の仕事は世界中どこでも男性が中心になっていますが、活動を広げていくには、やはり多くの女性が関わることが大事ですね。

2013年3月にヘップバーン市民風車を訪問した南相馬の子どもたち(写真:ふくしま支援ブログ)

2013年3月にヘップバーン市民風車を訪問した南相馬の子どもたち(写真:ふくしま支援ブログ

■ 収益は自然エネルギーの普及にも

—— 収益は、どのような形で地域に還元されているでしょうか?
タリン:収益は地域にさまざまな形で還元されています。まず、発電所の半径2.5キロ圏内に住む人たちは、割安な電力を購入することができます。また、出資者には配当金が支払われています。出資者のほとんどは地元の人なので、ほとんどの利益を地元に支払っていることになります。
さらに、この3年間に収益を地域に投資した金額は、72,000オーストラリアドル(日本円で約660万円)になります。そこには、消防署や公民館などの公共施設も含まれています。例えば2013年には12のプロジェクトに投資しましたが、そのうち4つが自然エネルギーのプロジェクトでした。こうして、風車で得た収益を、自然エネルギー普及のために役立てられていることを嬉しく思っています。
こうした活動を通じて、風車を建てることがコミュニティに25年間にわたって利益をもたらすものだと認識されるようになりました。組合員の97%には満足してもらっています。

■ 反対する人と市場でディスカッションも

—— 当初、住民の間には溝があったそうですが、どのように乗り越えたのでしょうか?
タリン:風車の周辺、半径2.5キロ圏内には65世帯が暮らしています。プロジェクトが立ち上がって、ほとんどの人が応援してくれましたが、一部反対する人たちもいました。また、計画段階では黙っていたけれど、建設がはじまってから懸念の声をあげる人も出てきました。誤った情報に基づいたうわさ話が流れたこともあります。
私たちは積極的な対話を続けました。うわさ話については、ソーシャルメディアで情報開示をしたり、新聞に広告を出すなど、うわさが間違っていることを示しました。そして、この風車が建つことでコミュニティにとってどのようなメリットがあるかを訴えたのです。
小さな町だけに、反対している人と生活のいろいろな場面で出会うことになります。近所のスーパーなどで出会ったとき、きちんと説明するようにしました。地元の市場でディスカッションをしたこともあります。話す内容も、一般の事業者であれば技術的な話が多くなるのですが、私たちはコミュニティの人がきちんと理解できるように説明を行いました。反対している人と一緒に、他の地域の風力発電所の見学ツアーを行い、実際の騒音や周辺住民の声を聞いてみたこともあります。コミュニティでそうした対話を続けていくことで、私たちの側も、地域のためにしっかりやらないといけないという責任感を自覚するようになりました。
また、オーストラリアでは風車を建てる際、たとえ小規模な設備をつくる場合でも、大規模なものと同様の調査が義務づけられています。騒音や健康、地質や野鳥への影響、そして先住民族の文化遺産が埋められていないかなど、厳密に行われるのです。しかしそのおかげで、さまざまな疑問に対してクリアに説明することができました。最終的には皆さんが理解を示してくれましたが、最も大きな理由は、コミュニティのためのプロジェクトであることを理解してもらえたからだったと思います。
情報公開は、風車を建てた後もずっと続けています。大事なことは、反対している人たちの声をさえぎるのではなく、常にドアを開けて待っているというメッセージを発し続けることです。また、ともにプロジェクトに関わってみましょうと参加を促すことも重要です。

ファーマーズマーケットで子供たちと風力発電について話す環境団体スタッフ(写真:ISEP)

ファーマーズマーケットで子供たちと風力発電について話す環境団体スタッフ(写真:ISEP)

■ 自然エネルギープロジェクトが他の地域にも展開

—— 最近では、ヘップバーン以外の地域でも自然エネルギーを広めていると聞きましたが?
タリン:2010年からは、他の地域にもこのような形で自然エネルギーを広げたいと考え、「エンバーク(Embark)」という組織を立ち上げました。この組織は、日本でいえば環境エネルギー政策研究所(ISEP)のようなもので、地域をサポートしながら専門的な視点からアドバイスを行う活動をしています。プロジェクトを始めた年には、70ものコミュニティから自分たちの地域でも自然エネルギーに取り組みたいという連絡がありました。これらのコミュニティとは、インターネットを通じて情報交換を行い、ヘップバーンのモデルを有効活用してもらおうとしています。
すでに決まっているプロジェクトもあります。シドニーのダーリングハーバーという港では、国際展示場の屋根の上に、400キロワットの太陽光発電設備を設置します。オペラハウスもある有名な港なので、注目を集めるはずです。また、首都のキャンベラでも、ソーラーファームを地域のコミュニティと自治体が連携するモデルを予定しています。将来的には、大手の事業者と連携して、地域にメリットが落ちる仕組みをつくろうとしています。

■ 政権交代により、強まる風車への圧力

—— 現在はどのような課題を抱えているでしょうか?
タリン:オーストラリアでは、2013年9月の選挙で環境政策を重要視しない保守連合が政権を取りました。新政権は、石炭の増産と炭素税の廃止を決めました。これにより、化石燃料の価格に対して風力発電の価格が不利になってしまいました。
地域の人がヘップバーン風力協同組合に出資してくれた際、ほとんどの国会議員は炭素税に賛成していたので、廃止されることは想定していませんでした。ビジネスの前提が崩れ、財政的に厳しくなるのは明らかです。
私たちは去年の11月に行われた株主総会で、政策変更の影響により今後2〜3年は財政が厳しいことを率直に伝えました。出資者の皆さんはそれをやさしく受け入れてくれました。そして「少しでも状況をよくするために協力するよ」と言ってくれたのです。コミュニティで行う発電事業は、良いことも悪いこともみんなでシェアしていくという姿勢が大事だと改めて感じました。
もともと、メルボルンのあるビクトリア州は世界で最も風力発電に厳しい規制を課しているところです。反風力発電ロビー団体も大きな影響力を持っています。新政権の誕生後はさらに規制が強まっているので、予定されていた自然エネルギープロジェクトには、一時凍結になったものもあります。
この状況を変えるのは、地域での教育や啓発、政策提言などの活動です。私たちは、それを達成するため「ビクトリア風力連合(Victorian Wind Alliance)」をつくりました。メンバーには、風力発電所の関係者だけでなく、環境団体や個人など幅広い人たちが加入しています。今はとても厳しい状況ですが、その中でダイナミックな運動をコミュニティから広げていきたいですね。

■ 強いストーリーを伝えていく

—— コミュニティパワーを実現するために何が必要でしょうか?
タリン:私たちはいま、化石燃料からのシフトを迫られています。多くの人に行動を起こしてもらうためには、人々の胸に残る素敵な物語を届けていくことが欠かせません。この風車はただの発電設備ではなく、ストーリーがあるんですよ、ということを伝えていくのです。人々にこのプロジェクトを愛してもらうようになれば、コミュニティで目的を共有することができるはずです。それぞれの地域には、限られた資源しかありませんが、それを活かし、工夫すれば形にすることが可能です。そのためには、地域の人々ともに学び合い、信頼を強くしていくことが何より大事になります。
プロジェクトが実現するまでには、長い道のりがかかります。必ずしも、はじめの情熱が長続きするとは限りません。そこで、情報公開はもちろんですが、何か進展があればお祝いするようにすることも大切です。それによって人々が自信を持つようになり、そのプロジェクトが自分たちのものだと実感できるようになるのです。私たちも年に30回くらいのイベントを行いました。風車の周辺だけではなく、地域や学校でもさまざまなプロジェクトを行いました。
また風車には、地元の有名なアーティストに「ゲイル」という女の子のイラストを描いてもらいました。こうした取り組みも、それまでの風車のイメージを変えるものになるでしょう。

メルボルンのアーティストGhostpatrolによる市民風車アートプロジェクト・ドキュメンタリー映像

このようなワクワクするようなイベントは、最初の目的を達成してからも続けていく必要があります。いま構想している企画としては、風車の足元で星空を眺めながらキャンプをしようというものがあります。ここでコミュニティエネルギーの会議をしたり、ライブ会場にしたりしながら、多くの人に稼働していることを見てもらいたいとも考えています。
オーストラリアではまだ自然エネルギーが普及していません。そしてオーストラリアに限りませんが、風力発電には誤った前提に基づいた、誤解と神話が多すぎるように思います。このような機会を設けて、その誤解を解き、風力発電の本当の力を知ってもらいたいのです。

コミュニティパワー国際会議2013 in 山口にて(写真:高橋真樹)

コミュニティパワー国際会議2013 in 山口にて(写真:高橋真樹)

私は、昨年3月、前回のコミュニティパワー会議に参加しました。今回1年ぶりに日本を訪れて、この1年の間に本当にたくさんのプロジェクトが増えていたことが嬉しい変化です。ISEPや地域の人たち取り組みの成果がよく現れていると思いました。2011年の原発事故から、人々の中に現実を変えるという強い気持ちが芽生えたことがわかります。
南相馬の中学生たちにも言いましたが、人は困難を体験すると強くなるのです。コミュニティパワーの実現に取り組む人たちも、そこから得られた強さを糧にして行動を続けていってほしいと思います。

■ 関連リンク

(インタビュー・記事:高橋真樹)

全国ご当地電力レポート