課題を乗り越え建設した13基の風車 – 島根県・中国ウインドパワー 矢口伸二さんインタビュー

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神楽のキャラクターが描かれた江津の風車(写真:中国ウインドパワー)

神楽のキャラクターが描かれた江津の風車(写真:中国ウインドパワー)

事業性のある風車を建てようとする場合、1本約2億円から5億円の費用がかかり、その他にも法規制や立地の問題などハードルの高さから、国や大手でないと手が出せないと思われがちです。実施に、現在の日本にある風車のほとんどが、大企業の傘下にあります。ところが、島根県浜田市に拠点を置く「中国ウインドパワー株式会社」という会社が、さまざな課題を乗り越えて、風車の事業化を実現しています。従業員4名の小さな会社がなぜ風力事業を始めたのでしょうか?さまざまな疑問を、中国ウインドパワー社長の矢口伸二さんにうかがいました。(取材・記事:高橋真樹)

■ 13基の風車を石見地方に建設

ーー まず、現在建っている風車の設備を教えて下さい。
矢口:まずは中国ウインドパワーの本拠地である浜田市に1基、益田市に1基、そして江津市(ごうつし)に11基で合計13基です。総出力は約2万6,000キロワットで、一般家庭1万4千軒分の電力を生み出しています。
私たちは地域で事業を回すことを大事にしているので、それぞれの地元に法人税が落ちるよう、中国ウインドパワーの子会社という形で、それぞれ益田ウインドパワー、江津ウインドパワーというSPC(特定目的会社)を設立して、中国ウインドパワーから社員を派遣するという形で運営しています。
社名についてですが、我々の会社がある浜田市は、島根県の西側で、石見地方と呼ばれています。益田市も江津市も石見地方です。会社を作った当初は、風車を石見地方だけでなく、また島根県だけでなく中国地方全体に広げていきたいと考えていたので、このような名前にしたのです。

江津ウインドファーム(写真:高橋真樹)

江津ウインドファーム(写真:高橋真樹)

ーー 現在、日本で風車を手がけている事業者は大手がほとんどですが、中国ウインドパワーは独自の展開をしていますね。
矢口:そうですね、風も立派な地域資源です。それが大手企業の本社がある都市部に持って行かれているということになります。お金の流れという意味では、風車事業も原発と変わらない構造になってしまっているのです。
島根県の貿易額は赤字ですが、一番大きな額をエネルギーに支払っています。今はそれを中央からの交付金でカバーしていますが、いつまでも続けられるわけではありません。私たちのような地域ベースでエネルギーをつくる取り組みが増えることで、その構造を少しでも変えていければと思っています。私たちは大手が関わる部分を最小限にして、地元業者さんに利益が回せるようにしています。中間にいろいろな業者が入らなければ、全体の経費も減らせることになります。

■ 町おこしでできたつながり

中国ウインドパワー株式会社 代表取締役社長 矢口伸二さん

中国ウインドパワー株式会社 代表取締役社長 矢口伸二さん

ーー 風力事業を始めるきっかけは何だったのでしょうか?
矢口:私は東京出身で、17年前に浜田市にIターンしました。東京にいた頃は鉄鋼会社で海外営業などを行っていました。風車を手がけるようになったのは、ここに移住してから、かつての会社に島根で風車を販売できないかと声をかけられたのがきっかけです。

ーー 東京から来た矢口さんが、浜田で風力事業をはじめるときに支えてくれたのはどんな人たちだったのでしょうか?
矢口:浜田に来てから、輸入卸会社の経営をやりながら、地元の商工会議所の青年部で、町おこし事業に携わっていました。ボランティアで、いろいろなことをやりましたね。
東京の企業にいると、地域のお祭なんか関係なかったんです。3,000人くらいの会社のいち社員として、その中で関係性をつくれればよかった。でも、田舎に来て我々のような小さな会社がやっていくには、付き合いが必要です。それで外につながりを求めるようになりました。今は町を発展させることが、商売にも活きることがわかりました。
そうしたつながりの中で、よそものだった私も認められるようになり、ものすごく人脈ができました。中国ウインドパワーを立ち上げるときも、そのとき信頼関係ができた人たちが支えてくれました。実際に株式に出資してくれた方もいますし、その方たちの協力がなければ、とてもできなかったですね。皆さん自分の利益よりも、地域のこと、環境のことを大事に考えている人たちです。

■ 事業をはじめていきなりの困難

江津ウインドファーム近くには電車も通る(写真:高橋真樹)

江津ウインドファーム近くには電車も通る(写真:高橋真樹)

ーー 最初の風車の建設が2年遅れたとのことですが、その経緯を教えて下さい。
矢口:県が景観に問題ありと開発に待ったをかけたのですが、実はそこにあった県の歩道は全く手入れされておらず、景観もあったものではありませんでした。それをもって自然を守れと言うのはおかしい。要するに、新しいことをやろうとすると県民の中から苦情を言う人が出るので、その責任を回避したかったのだと思います。
私はここの出身ではないので、地元の方に意見を聞きました。すると、風車のイメージは案外良くて、応援してくれる人も結構いました。それで頑張ってみようと思いました。
ところが2003年に、2年がかりで県が出した答えは結論先送りというものでした。そのときに浜田市長が責任をもって進めると言ってくれたんです。それならというので、島根県は容認に転じました。あのときは嬉しかったですね。浜田市長には直接は聞いていませんが、おそらく私が町おこしを頑張っていたという事を認めてくれていたのではないかと思っています。

■ さまざまな課題への対応

ーー 難航したスタートですが、その後はどうだったのでしょうか?
矢口:当初はなかなか計画通りには発電してくれなかったので、自然を相手にする難しさを日々感じていました。平均風速は統計でだいたい予測できるのですが、瞬間の風はいつどの方向から、どの様な風が、どんな強さで来るか、全くわかりません。普段は羽の向きを自動調整して対応しているのですが、風があまり強かったり、風向きが突然変わると、大きく振動して止まってしまうのです。

ーー 他にも風車といえば騒音問題などが懸念されていますが、苦情は受けませんでしたか?
矢口:騒音と景観については当初かなり言われました。江津の風車は側に集落があって、建てる以前から何度も説明会を行いました。また、できるだけ音が小さくなるように、風車に工夫をしたり改良をほどこしました。
風車の音といっても、風切音とか、ファンとか、音の出る場所は色々とあり、何が気になるかは人によって異なります。苦情があった時はまず行って、どんな音がどんな状況で気になるかを聞き、対策を立てました。それによって確かに音が下がったと評価してくれる人もいます。
また、建設当初から地域の自治会が主催している海岸清掃に運搬車を出して、高齢者の方々のゴミを運び一緒に汗をかいたりと、信頼関係づくりも重ねてきました。
そうしたこともあって、この1年は全く苦情が来なくなりました。ただ、苦情がなくなったからまったく問題がなくなったというわけではないと思います。今でも我慢されている方もいると思います。今後もできることはやっていきたいと思っています。

■ 中小企業にも風力事業はできるか?

ーー 風力発電事業は他の中小企業でもできるようになるでしょうか?
矢口:私としては、全国でやりたい人の参考になれるよう、できるだけ努力していきたいとは思っています。しかし、現時点では法制度なりファイナンスの関係上、まだまだハードルもリスクも高い事業だけに、一緒にやりましょうとは軽い気持ちでは言えません。FIT(固定価格買取制度)が始まって、太陽光は安定した事業になりました。そこで我々も、浜田でメガソーラー事業を検討しています。
でも風力は、今のFITの価格でも中木企業には難しい。最近できた法律で、風車建設には3年の環境アセスメントがあって、その調査に1億円くらいかかるようになりました。我々のようなところが1億円払って3年待った挙句「できません」と言われたら大変なことになります。リスクが高すぎて、大手でさえ躊躇している状態なので、このままではなかなか広がっていきません。(※)
FITの価格についても、我々はFITができる前からかなり厳しい金額で回せるように作っているので、FITの導入によって何とかなるようになりました。しかし今から新設しようとすると、中小企業には厳しい価格だと思います。
国にリクエストするとしたら、ローカルな中小企業に対して、もう少しインセンティブを付けて欲しいということです。もともと田舎と都会とではインフラも違いますし、これから地方で始めようという人に少しくらいインセンティブを与えても、不公平ではないはず。スタートラインが都会とは既に違うのですから。風車建設資金の借入に関して債務保証を国がしてくれるという制度も、以前はあったのになくなりました。今の政策は大手のことしか見ていないという感じがします。
大企業を優遇すれば、日本全体の数字が上がっていくのは確かです。でも、地方も含めてみんなの幸せにつなげるためには、企業の9割以上を占めている中小企業を育てていく環境をつくらないといけません。それが地域活性にも結びつきます。大企業優遇、都会優先のシステムは、狭い日本をもっと狭く使うやり方で、無理があります。もっと広く使う方法を国が定めないといけないと思うのです。
エネルギーは、そういうことを解決する突破口として大きなチャンスになると思います。現時点では、中小企業にとって不確定なリスクが大きすぎる風力事業ですが、そうした制度が一つずつ変わっていけば、中小企業でも風力事業は十分手がけられるようになると思います。

※ 環境アセスメントについては2013年末現在、環境省が規制緩和を検討している

■ お問い合わせ

中国ウィンドパワー株式会社
〒697-0024
島根県浜田市黒川町155−7
TEL:0855-25-0151

(取材・記事:高橋真樹)

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