さつま自然エネルギーは、鹿児島県いちき串木野市の会社経営者の方たちのネットワークでできた合同会社で、「株式会社パスポート」という川崎市に拠点を置く会社がその事務局を担っています。(取材・記事:高橋真樹)

「西薩クリーンサンセット」の工場に設置した太陽光発電(写真:さつま自然エネルギー)
「西薩クリーンサンセット」の工場に設置した太陽光発電(写真:さつま自然エネルギー)

概要

事業社名:合同会社さつま自然エネルギー
本拠地:鹿児島県いちき串木野市
ステータス:事業開始済み

設立のきっかけと事業概要

パスポートは、事業の一つとして太陽光発電事業も行っており、パスポート社長で、さつま自然エネルギーの代表もつとめる濱田総一郎さんは、いちき串木野市を地元としています。

この事業をはじめようと動き出したのは、東日本大震災が起きる以前からです。いちき串木野市の人口は3万人。全国の地方と同様、高齢化が進み、このまま何もしなければ市は疲弊していくだけなので、何とかしなければという濱田さんをはじめとする地元経営者たちの思いが、最終的に1億3,000万円の出資金を集めることになり、「再エネを利用した町おこし」というプランに結びつきました。

また、福島第一原発事故が起きて以降、人間の手に負えないような原発に依存したままでいいのかという議論もされてきました。この町は、鹿児島県川内原発から15キロ圏内にあり、改めて、持続可能な多様なエネルギー源を子孫に残したいという思いが活動の目的に加わりました。

さつま自然エネルギーは、2012年4月に食品産業を中心とした地元事業者や団体、いちき串木野市など10社が出資金6350万円で設立。2013年10月現在は参画している企業等は15社に増え、出資金も1億3000万円になっています。また、行政も市が管轄する遊休地を貸し出したり、広報に協力するなどのバックアップをしています。

第一弾設備として工業団地や市内各所に設置した設備は合計約3メガワット(3,000kW)。震災発生以前から動いていたということもあって、一部は再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が実施された初日(2012年7月1日)から売電を開始するという迅速な動きとなりました。太陽光発電設備を、大量に一括購入することで、単価を安くすることが出来ました。2013年10月現在は、このような仕組みを利用した一般家庭の屋根への設置もスタートしたところです。

特徴

2013年「地かえて祭り」の様子(写真:さつま自然エネルギー)
2013年「地かえて祭り」の様子(写真:さつま自然エネルギー)

いちき串木野市は他の地方と同様に、人口流出と高齢化が進み、雇用がないという状態が続いています。地域の主要産業は食品関係で、太陽光パネルを設置した西薩中核工業団地は、蒲鉾の加工工場や、焼酎の製造などを行っている場所になります。そこで中心的な存在になっている濱田酒造が、周囲の企業に声をかけたことが、多数の企業が出資するさつま自然エネルギーの設立に結びつきました。ちなみに、事務局を担っているパスポートは、濱田酒造の関連会社としてスタートした会社です。

西薩中核工業団地は、普段は閑散としていますが、毎年10月中旬にここで開催される「地かえて祭り」(いちき串木野商工会議所主催)という地域のイベントには、10万人以上が参加します。さつま自然エネルギーでは、今後はそこにエネルギーという要素を加え、町おこしを進めていこうと考えています。

2013年10月26日〜27日に開催された『地かえて祭り』では、さっそくさつま自然エネルギーとして出展。小学生を対象にした『次世代エネルギーのまち いちき串木野市の未来絵画コンクール』を開催したり、親子で参加するソーラー工作を行い、ペットボトルエコライト作りが好評となりました。

活動には企業だけでなく、「エネルギーで町おこしをしよう」という主張に賛同した地元の金融機関や、自治体が協力しています。また、地元の設置業者の雇用を生むという効果も期待されています。課題としては、地元企業が母体になって突き進んできた分、まだまだ一般の市民には認知されていないので、どのように広げていくかという部分があります。

市民出資については、長野県飯田市で活動するおひさま進歩エネルギーからアドバイスをもらい、全国で募集しました。10年間で年利2%で配当するものです。 一口30万円で500口募集しましたが、宣伝が十分でなかったこともあり、集まったのは129口でした。その辺りも今後の課題と言えるでしょう。

設置設備について(2013年10月現在)

事業の第一弾として、西薩中核工業団地に約2メガワット、それ以外の学校法人や酒造会社、市の遊休地など市内各所に約1メガワット、合計3メガワットの太陽光発電設備を設置しました。総事業費は約9億円で、その一部は2012年7月1日から売電をはじめ、2013年10月現在ではすべて稼働済みです。

費用は企業からの出資と地銀からの融資に加えて、一部市民出資(集まった金額は3,870万円)が入っています。出資した企業はほとんどが自らの工場などに設備を設置している会社で、賃料と配当が入ってくる仕組みになっています。出資金は、1kwあたり2万円で、出資額に合わせて賃料を得ることになっています。

現在のところ、10年から12年で元が取れる計算になっていて、その後は現在設置している各企業に無償で譲渡する予定です。その間、さつま自然エネルギーはメンテナンスを担当します。

今後の展望

現在は、まだエネルギー事業を担う母体ができたという段階です。この存在を今後どのように活かして、町おこしを進めるのかはこれからの活動次第だと言えるでしょう。

そうした目的に向けて、すでに小学校などで環境教育を行ったり、遠足のコースとして工業団地のパネル見学を入れたりといったことも始まっています。

また、市民出資の出資者ツアーや、グリーンツーリズムのように自然エネルギーを観光に結びつける取り組みを、売電収入を元手にできないか構想しているところです。一方、エネルギー面での取り組みでは、発電だけでなく、工業団地という特徴を活かして、冷凍や冷房のエネルギーをコントロールする方法なども調査中です。

ステークホルダー

  • 関連会社:株式会社パスポート
  • 関連会社:濱田酒造株式会社など地元企業15社
  • 行政:いちき串木野市(調査、提言、出資、行政の土地の貸し出し、広報などのバックアップ)
  • 地元金融機関:鹿児島銀行、鹿児島信金(事業への融資)

キーパーソンからのメッセージ

さつま自然エネルギーの漆原道友さん(高橋撮影)

漆原道友さん(株式会社パスポート太陽光発電事業本部九州営業所所長)

”さつま自然エネルギーが目指すのは日本で最も環境負荷の小さい工業団地を実現し、将来的には次世代エネルギーと地域資源を結びつけた地域の魅力を発信し、企業誘致と交流人口の増加を図ることです。

いま私たちが何もしなければ、少子超高齢化と経済構造の変化によってまちが衰退の一途を辿ることは、様々なデータによって明らかです。それは日本の地方都市が抱える同様の課題でもあります。だから、私たちは「環境維新」を掲げて、将来の世代が豊かで安心できる環境モデル都市の実現に取り組んでいます。

まちおこしに必要不可欠なものは、本物の志と持続可能な経済性のある事業です。地元中小企業、行政、地元金融機関そしていちき串木野市民が結集したことはとても大きな意義があると思います。”

お問い合わせ

〒896-0026
鹿児島県いちき串木野市昭和通111
TEL: 0996-33-1510
FAX: 0996-24-5522

関連リンク

(取材・記事:高橋真樹)

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